うつせみ 
2002年 3月 20日
             Vanity

 今回の世界一周の船旅は5つのSegmentから構成されていて、Segmentごとに値段がついている。勿論5つを購入して一周すれば割安になるような料金制度になっている。我々はLos Angeles→Sydney→Hong Kongの2つのSegmentのうちTokyo以降しか乗っていないから言わば3.5 Segmentsを購入したことになり、比較的損な値段になっている。つまり一部だけ乗るにしてもSegmentごとの方がお得になっている。そういう料金体系のため、船が香港に着いたらかなりの人が乗り降りした。面白いことに米国から飛行機で香港に来て乗船し、Cape TownまでのSegmentを航海して、また飛行機で米国に帰るという人が結構いる。つまり時間的予算的に全Segmentは無理でも、このSegmentが面白そうだと思うと飛行機ではるばる乗船しにくる訳だ。船会社の方も心得ていて、その場合の飛行機を無料または値引きサービスしている。Hong Kong→Cape TownのSegmentは人気があるらしく少し乗客が増えた。それをまた物好きな人が分析した。

 乗客は217人から265人に増えた。増分の多くがCaliforniaから来た人だったらしく、米人比が82.5%から89.4%に増え、California出身者が24.4%から30.9%に増えた。双璧のFloridaは実数はあまり減っていないにも拘わらず24.4%から18.5%に低下した。全般的に南方の州が優勢なのは変わらない。外国勢では英国6名カナダ5名の優勢は変わらないが、さすがに香港と豪州の出身者が増えて各4名、日本人は我々2名だけとなった。尤もハワイの日系米人夫婦が片言の日本語で話しかけてくれたが、Singaporeで下船したので、今では日本語は我々夫婦間でしか通用しない。

 乗客の平均年齢は70歳ほどかと想像される。車椅子の人もあり、杖はかなり多い。杖をつかない人も太っていたりしてバスのステップの上下はかなり困難な人も多いので、原則全員に乗務員が手を貸す。私は手を貸されるとしゃくだから駆け下りてみせる。CruiseはCare Houseだと心得ている人も居るそうで、金を心配する必要がなければ確かにこれが一番いい。ホテル住まいよりは変化があって面白いだろう。寄航地に着いても全然下船しない人も少なくない。「観光地をつなぐ移動手段」では全然ない訳だ。例外もあって、91歳と聞く某夫人は杖もなく階段を上り下りしていて、ワイフが敬遠するような題目の講演会場でもよく見かける。

 膨大な遺産を受け継いだために生まれてこのかた金を使ったことはあるが儲けたことは一度も無いという人もこの船には居るそうだ。しかし大多数は何らかの意味で成功して金を溜め込んだ人達だ。そこで気づいたのだが、現状から50-60年差し引くと絶世の美人になるというご夫人方が多い。再婚もあるかも知れないが、青年の将来の成功を嗅ぎ分ける嗅覚が女性には備わっているのではないかと思う。

 船のスタフにも美男美女が多い。スタフには2階級あって、Stewardessと呼ぶメイドやレストランのウェイタや、年中船体の掃除やペンキ塗りをしているスタフは、たとえ客に接する役目であっても食事はスタフ用の食堂で済ませ決して客と同席することはない。一方士官・Officerという肩書きのスタフは、客と食事やお茶のテーブルを共にし接待に努める。Entertainerという肩書きのショータイムで歌や踊りを担当するスタフもOfficerと同様だ。これら接待係のスタフは、どう見ても容姿が採用の重要要件になっているように見える。

 こういう華麗なVanityの中でワイフは、正装・Formalの夕べは勿論のこと、Informalの日であっても、夕食の1.5時間前には衣装をあれこれ着てみてアクセサリの選択に念を入れる。「東洋人は西洋人よりも一回り身だしなみに注意しないとみすぼらしく見える」というのがワイフの持論で、一回りか二周りか念が入っている。オシャレを楽しんでいるのかと思ったら、私の体調不良で「今日はレストランには行かない。インスタント麺だ」と言ったら「ヤッター」と喜んだこともあった。贅沢な悩みだとは思うが、25.5年間毎朝毎晩送り迎えしてくれたお礼に一度くらいはいいだろう。しかしお陰でワイフはこのVanity社会でかなりの人気を得てきて、私は「Sue's Husband」になってしまった。怪しからん!!      以上