うつせみ
2006年11月26日
             乗客

 私達の乗る米Regent Seven Seas Cruises社の定員700名の客船Mariner号は、今555名の乗客を乗せてNew Zealandの東海岸を北上中だ。私達は11月1日にSingaporeから乗船したが、船は9月13日にVancouverを出航し、太平洋を反時計回りに回って10月初めには函館・仙台・東京・広島にも寄航し、12月18日にLos Angelesに接岸するまで98日の旅をしている。約2週間ずつの7つのSegmentから成り、Anchorageまで、東京まで、香港まで、Singaporeまで、Sydneyまで、Aucklandまで、Los AngelesまでがそれぞれSegmentになっている。私共は最後の3 Segmentsを乗船していることになる。東京−香港間では多数の日本人団体客が乗っていたという。

 Singapore-Sydney間には、私共2人の他に6人の日本人団体客が居た。魅力的な女性添乗員兼通訳と、男性が76歳の社交ダンスがプロ級(ダンス教室オーナかも)のご夫妻と、3人の年配の女性だった。食事も上陸観光も全て団体行動なので、ほとんど船客や乗務員と接することはないが、偶に個人的買物などで乗務員に接すると言葉が通じないため非常に扱いに困りトラブルもあるらしい。従って私共に対しても、最近は無くなったが最初は、乗務員はまず声を掛けることをためらい、当方から声を掛けても極度に警戒し、白人乗務員の中には時として軽蔑的な態度を見せる者も居る。3.5年前の先回のCruiseでは感じなかった新現象で、日本人が団体でCruiseに参加するようになった結果だと推察している。

 Singapore-Sydney間は546名の乗客の僅か46%が米人で、豪人19%、英人14%などだった。特筆すべきは香港3名、韓国/印度/Malaysia/タイから各2名の参加があったことだった。タイの人と話したが、中国系のようで流暢な英語で活発な活動をしていた。Sydneyで多数が下船し470名が乗船して顔ぶれが変わった。今は米人が74%、豪/英/加から各数%と、普通の船客分布になった。香港は6名に増えたが、他の東南アジアからは居なくなり、日本からは私共だけとなった。1人だけ日系らしき女性が居て、若い日本人のモデルが年の離れた米富豪にみそめられて十数年と想像している。

 ワイフが面白いことを言い始めた。金髪の割合が異常に高いという。或る会合の時に女性を数えたら金髪48%、非金髪28%、今や白髪で元の色不明24%だった。なるほどこの金髪率は異常で「紳士は金髪がお好き」というMonroeの映画を思い出した。男性の金髪率と比較しようと数え始めて気付いたのだが、男性はほとんど白髪で数えようがない。ということは女性も本当は白髪が多く、どうせ染めるなら金髪に、という女心と推察した。

 それにしても「元美女」が多い。50-60年を引算してみると皆相当な美形だ。私共は絶対違うと宣言しておくが、夫婦の元美男度よりも元美女度の方が格段に高い。美女は将来Cruiseに連れて行ってくれそうな男を敏感に嗅ぎ分けているに違いない。男女とも老いても皆頭の回転が速く、日本に昔仕事で行ったことがあるという人が意外に多い。

 未亡人の参加者が多い。女性の方が長生きするし、年下のことが多いからだろう。遺産の使い道に困ってCruiseしているかのようだ。こういう女性のためにCruise会社は、Hostと呼ぶダンスのうまい老紳士を数名用意している。IBM営業退職者、開業医退職者などだ。しかし好きでもない女性をダンスに誘い、上手な相手には上手なりに、下手な人には下手なように奉仕し対応している。俺はやりたくない商売だなあ。そこでハタと思った。最近は無いが昔は仕事で銀座のクラブなどにも行った。あの時私に対応してくれたHostessも同じような犠牲的営業精神だったに違いない。

 多くの女性は百万円クラスの装飾具を複数個身に着けて夕食に出る。失くしたりしたら面倒だから高価な宝石は持たないようにワイフに言ったことが恨み節になっている。洋装では敵わないからとワイフは、正装の日には全て和装で通している。着物を自分で着られて英語がしゃべれる社交人は珍しいらしく、これが結構モテる。おかげで私は社交上得をしている。しかし方向オンチのワイフは未だに独りで船内を歩くと迷う。つまり共存関係で、どちらが欠けてもCruiseは楽しくないに違いない。これからもワイフを大事にしようという気持が一段と強くなった。      以上