オオムラサキ
オオムラサキを見た!! 写真も撮れた。昭和32年に日本昆虫学会で国蝶に指定された蝶で、「世界に誇る日本の格調高い華麗な蝶」だそうである。広げた羽は10cmにもなろうか、大きな蝶である。雄の羽は中央が美しい紫に輝き、白い斑点が縦に一列ある。周辺は茶色に白と黄の斑点が多数ある。羽の裏はクリーム色一色だから羽を閉じたら蛾と変わらない。雌も同様だが紫の輝きがない。飛び方も一種独特で、バタバタと羽ばたいたあとグライダーのように滑空する燕のようだ。幼虫はエノキの葉を食べる。成虫は花の蜜を吸うのではなく、クヌギの樹液を吸う。
山梨県の北西端、北巨摩郡長坂町が「オオムラサキの町」をPRしていることは以前から知っていたが、それ以上のきっかけが掴めなかった。今年気まぐれでJR中央線に沿った七里岩ラインという道路に入り、日野春駅の北西1.5kmにオオムラサキセンターなるものがあることを見つけた。
その時はまだ素人考えでも蝶々の居る季節ではなかったので通り過ぎたのだが、7月9日にもういいかと思って寄ってみた。オオムラサキの羽を模した屋根を持つ展示館で初めてこの蝶の生態を学んだ。蝶を見られますかと係官に聞いたら、裏手の網の小屋でごらんなさいという。金網で立ち木を含む2階建ての家ほどの小屋が出来ていて、確かに20-30匹のオオムラサキが「籠の蝶」になっていた。細かい金網越しに覗くのだが、大体この蝶は金網の天井近くを飛んでいるか羽をすぼめて止っている。偶に羽の表が見えても角度によって美しかったりそうでもなかったりする。とその時は思った。岩下志麻は横顔を撮影する時は絶対右横顔を撮らせないそうだが、撮影角度の難しい美人のようなものだと、その時は思った。今思えば雌は輝かないことを知らなかっただけだったのだと思う。
園内には西瓜を割って木にぶら下げたり、クヌギの幹に傷をつけて樹液が出るようにしてあり、高い位置から観察できるように観察塔まであるのだが、自然の蝶はついに見付からなかった。係官の曰く「外はまあ難しいですね」ということだった。これで欲求不満が募り、早速倉地正氏に電子メイルでコーチを求めた。氏の言われるには、梅雨明けの雨の後の晴天がチャンスでクヌギの木で待てということだった。今がチャンス!!
中央線長坂駅と日野春駅の間に全長10kmの自然観察歩道がある。草もロクロク刈ってない急坂の多い道で店はおろかトイレすらないから、山支度で踏破すべきだったが、散歩用短靴で手提げカバンでワイフと一緒に歩いた。因みに両駅と長坂駅近くの町役場には実質無料で駐車できる。
長坂駅から線路の西に出て、農業大学と線路の間を南下し、農業大学の葡萄園に沿って西に回り込むように雑木林に入り、草ボウボウをかき分ける急坂を深沢川まで下る。暗い雑木林はほとんどクヌギなので、期待してキョロキョロしていたのだが、ワイフはあまり期待すまいと言う。実際影も形も無い。坂を下りきった所で、ガイドパンフレットは「振り返って下さい。オオムラサキの乱舞が見えます」と書いてある。よく言うよ、とそれでも素直に振り返ったら、いや居た居た、番を求めて10匹ほどが乱舞している。それを小鳥が狙う。小鳥をかわして葉陰に隠れる。時々木の葉に羽を広げて止る蝶がある。遠いけれども望遠で写真を撮ってみる。その内に近くに止った蝶が居た。写真を撮り、一歩近づきまた撮る。また近づいて撮る。なぜか逃げないので結局大きく撮影することに成功した。
大深沢川の左岸は全てクヌギの林である。その川に近い日当たりのよい辺りを蝶は飛ぶらしい。対岸から見るとあちこちで蝶が2匹ずつ飛んでいる。総計数十匹から百匹ほど見かけたと思う。下から見ても葉が邪魔して見えない。川の対岸や橋から見るのがよい。慣れた目で自然観察歩道の他の場所でも何匹か見かけたが、大深沢川左岸のような乱舞はついに無かった。季節の移ろいで変わるのかも知れないが、今ならオオムラサキを見るだけなら10km歩くのではなく、長坂駅からこの場所に往復した方が能率がよい。もっとサボればヤブコキを避けて、長坂駅から清春芸術村に下る自動車道を下って大深沢川を越えた辺りから右岸に入る細道がある。
見たぞ、見たぞ!! しかし物好きだなあ。 以上