うつせみ
2000年 5月 7日

           Gifted Boss

 米国から"The Gifted Boss"という本が送られて来た。新時代の上司・部下関係、採用・求職関係の理想像を追求した優れた本だった。
Dale Dauton: The Gifted Boss, William Morrow & Co., pp113

 見返しに "To Shig Matsushita, Gifted friend and associate of Dick Ruth"とサインペンで書いてあった。Dick RuthはGeneral ElectricのComputer事業部がHoneywell Information Systemsと変わった1970年代にArizona州Phoenix市の事業所で技術部長をしていた人で、その後小さい会社をやってきた。もう四半世紀以上会っていないが、一緒に仕事をした時に肝胆相照らした思い出が双方にあって、Christmas Card交換だけは続いている。因みに私のChristmas Cardは年賀状の英語版で、私共の写真と1年のご報告で日頃のご無沙汰を一挙に挽回しようとするものである。なぜDick Ruthがこの本を送ってよこしたかといぶかりつつ読み進むうちに、終わりの方でDick Ruthの名と発言が引用されているのを発見した。

 Arizona州Tempe市在住の著者が知り合った多くの経営者の体験や発言を通じて、新時代の上司・部下関係のあり方を描いている。新時代と私が言う意味は次の通りである。米国ではIBM, TI, GEなど新規採用学卒を社内で育成して(日本ほどではないが)ほぼ終身雇用するスタイルが廃れ、出来上がったタレントをStock Optionで釣るドライなSilicon Valleyスタイルの雇用関係が広がったのに対して反省を求め、もっと強固な上司・部下関係がないと業績は上がらないと警告している本である。また著者は意識しているはずもないが、日本では終身雇用制に限界が来て新しい雇用関係が模索されている。終身雇用を求めていない従業員の人口が特に新しい企業群に増えている。そこでの指針としての意味が貴重だと私は感じた。こういう新時代にBossは如何にあるべきかという主題である。しかしお説教にしてしまうと誰も読んでくれないから、筆者は次の工夫をしている。

 会社生活のマンネリに悩む部門長がPhoenixにConsultantの友人を訪ね24時間を共に過ごす間に色々対話し、近辺の企業を訪問し、啓示を得て帰るという設定で、すんなり読み下せた。その対話と訪問の間に、筆者が恐らく何年も掛けて取材した実例を数十件も盛り込んでいる所がこの本のユニークな説得力になっている。Gifted Bossとは言っても先天的とは限らず、努力してそうなれと言っている。内容は次のようになっている。
・Bossたる者Gifted Bossになろうと努力すべし。
・採用を人事担当やHead Hunterに任せたり、求職票を"Sort"するようでは、平凡な人しか採用出来ない。日頃からタレントと付き合っておいて、適所に適材を見付けてくる"Spot"のアプローチが必要。
・Gifted Bossは「あの人の下で働きたい」とタレントに望まれるBoss。
・Gifted Bossは部下を管理せず、部下が働きたくなる環境を作る。
・Gifted Bossがタレントに自らをアピールすることで、優秀なタレントは自ずから集まる。
・タレントを取り込むには、何年も掛けて仕事に巻き込む工夫が必要。
・採用で面接や推薦状に頼るな。どうせお化粧している。採用側と求職側の双方が互いの仕事ぶりを評価し同等のタレントを持つかを評価せよ。
・求職者は、会社や職種を選ぶよりGifted Bossを選べ。会社は永遠ではないが、人のネットワークは生涯価値を持つ。
・求職者も多くの人と付き合い、自分のタレントを仕事ぶりで見せておくとGifted Bossに出会い易い。

 一方ではBossがGifted Bossになるための努力は次の通り。
・部下の仕事ぶりのスタンダードを高め、それに照らして評価。
・部下に「どうしましょうか」と言わせない。対案を持って来させる。
・部下一人一人が、欠点はあってもよいから、特技を持つように努力。
・他社・他部門に自慢できるものを部下に与える。
・上記の目的は The best place for the best people to workの用意。

 今日本と米国の上司・部下関係と採用・求職関係を両極端として、その中間に最適点があるよと言われたように感じた。        以上