うつせみ 
1996年 1月 2日
            Cokeの爆発

 毎年正月に自宅をオープンハウスとしてご近所様をご招待してきたが、 少しマンネリかなと考えて今年は休業宣言をした。すると恐しいもので、 自宅の大掃除が全然進まなかった。お客さんを想定して恥をかきたくない 一心でないと掃除ができないとは意志が弱い証拠である。もっともブラブ ラしていた訳ではなく、ちゃんと知的労働をしていたのだが。

 年内は自宅で過ごし交通渋滞が去った元旦に八ケ岳の山小屋に行った。 入った途端ワイフが悲鳴を上げた。なぜかダイニングキッチンがコカコー ラだらけになっていたのである。汚染源はすぐ見つかった。部屋の一角に 置いてあったコカコーラの缶が凍結して爆発していたのである。気温が時 にはマイナス20度にもなるから、今までも卵が割れたり、化粧水の瓶が 壊れたことはあったが、缶が破裂したのは初めての経験である。しかも卵 の殻やガラス瓶を壊すのに大して力は要らないから、被害は局所的であっ たのに対して、缶を壊すには相当な力が要るからそれだけ爆発は強力で部 屋中コカコーラだらけになってしまったのである。

 大掃除をサボった罰で元旦に1時間以上もかけて5坪ほどの面積の掃除 に当たった。まず床掃除からである。缶の近くの床は勿論コカコーラの池 と斑点だらけであるが、缶から 3mも離れた位置にまで飛び散っていた。 雑巾掛けをしながら私はその飛散状態を不思議に思った。常識的には爆心 地から遠くになるほど斑点が少なくなっていくはずであるが、実際は全然 違っていた。これがクイズその1である。どういう現象が起こればこうな るかを推察して欲しい。中心から 1mの範囲は当然濃密に飛散していたが、 その外側の 2m程はほとんど飛散がなく、部屋の隅に 2cmほどの敷居が床 から立ち上がっている手前に集中して斑点があった。どうなればこういう 不思議な分布になるだろうか? 床の掃除があらかた終わって周囲を見回 すと、斑点は天井にまで達していたので踏み台を持ち出して拭き取らねば ならなかった。

 いよいよ爆心地の整理である。ここでまた不思議に出くわしたのでクイ ズその2としよう。コカコーラの缶は3個あった。アルミ缶だから底は凹 面で引っ込んでいるのだが、それが3個とも目一杯飛び出した凸面になっ ていた。蓋のつなぎ目はさすがしっかりしていて壊れてはいないが、蓋は やはり凸面になっている。円筒部は広がりようがないから、蓋と底を飛び 出させることで内部圧力を吸収したのだが、それでも堪え切れず、1個は プルトップが開いていた。1個はプルトップは無事であったが、蓋の一部 が裂けていた。最後の1個は辛うじて持ち堪えていた。大変な圧力である。 とても氷がマイナス4度で一番体積が大きくなるという現象で説明出来る 範囲ではない。その程度ならアルミ缶の弾力で吸収できていたはずである。 どういう現象が起こればこれほどの圧力になるのだろうか?

 私は次のように推論した。コカコーラの圧力は炭酸ガスに違いない。コ カコーラが凍結する時、あるいは一旦凍結した後に温度が少し上がった時 に、水に融解していた炭酸ガスが遊離してガス状になるのであろう。水に 融解するガスの量は温度に関連するから、凍結すれば当然ガスを放出せざ るを得なくなろう。例えばコカコーラの温度を下げていくと、水がガスを 放出しつつ氷片となって沈澱していくのではないか。あるいは凍結時には ガスを包み込んで凍結してしまい、少し温度が上がった時にガスを放出す る可能性もあるが、多分前者であろう。これを確かめて見たい気持ちはあ るが、実験の方法が思いつかない。いずれにせよコカコーラの瓶の中の炭 酸ガスが気体に戻ればとてつもない圧力になるはずである。因みに裂けな かった1個だけがCoka Cola Lightであった。Lightは炭酸が控えめという ことはあるのだろうか。これがクイズその2に対する私の推察である。

 そうだとすれば、裂けた缶からはすごい勢いで氷片が飛び散るはずであ る。氷片は床を滑って部屋の隅まで吹き飛ばされ、敷居で止まって後刻温 度が上がった時に解けたのであろう。これがクイズその1への推察である。 時ならぬ大掃除は大変だったが、面白い経験と推論ゲームをした。以上

東芝青梅の船津氏からインプットあり、氏はよくビールを凍らせてシャーベットにして呑まれるが、爆発は経験ないものの炭酸ガスの圧力は高くなるとのこと。