テクノうつせみ
2001年 6月30日

           Digital Music

 一寸した経緯で私が知らなかったDigital Musicの世界を垣間見た。

 CD=Compact Diskはディジタルとは誰でも知っている。PhilipsとSonyが1980年に決めたCD-DA = CD Digital Audio "Red Book"という仕様で、信号波形を44.1kHzで(1秒間に44.1千回)サンプリングした値を16ビット=2Bで表現している。演奏時間74分のCDには
  44.1k x 2B x 2 Stereo x 60sec x 74min = 783 千B = 747 MB
の正味のデータと制御データが詰まっている。1分=10 MBということだ。

 音楽CDをPCに取り込む時には WAVE file ".wav"という書式にする。MicrosoftとIBMが仕様を決めWindows 95からサポートしている。こればCD-DAの書式にサンプル数やビット数の指定が出来るようにした制御用のヘッダを加えたもので、CDのサンプル数・ビット数をそのまま取り込めば、やはり1分=10 MBである。

 PC上で音楽を扱うにはMIDI=Musical Instrument Digital Interface の".mid" fileも使われる。読んで字の如くComputer接続の楽器への指令Fileで、楽器の代わりにシミュレータ音源を使えばPCだけで演奏もできる。ピアノでCの音を0.1秒出せというような指令の連続だからFileは小さくて済むが、録音音源には無力である。

 近年MP3 ".mp3"が巾を利かせている。映像/音声信号圧縮のISO標準のMPEG-1の段階でLayer1, 2, 3と用意された音声圧縮技術のうち、最も圧縮率が高くWAVEの1/10 - 1/12になるLayer3がMP3と略称される。1分=1 MBということだ。人間の耳は、一つの強力な周波数成分を聞くとその周辺の周波数のより弱い成分はマスクされてどうせ聞こえないから捨象できる。またサンプリングに起因する量子化ノイズも上手にこのマスク範囲に分布させてしまえばかなり粗いサンプリングが可能になる。この原理で画期的に圧縮できるようになり、その後の圧縮技術の基礎になった。28.8kbpsのModemがフルに働いても、1分=10 MBの音楽をDownloadするには45分掛かるが、1 MBなら4.5分で済む。好きな音楽を入手するのに演奏時間の数倍で入手できればその気になれるため、Web上で一挙にDigital Musicが花開いた。その先駆けがNapster社で、会員がMP3で音楽を交換する場を提供した。音楽を提供するのではなく、個人的使用者のための場の提供だけだから著作権法に直接抵触しないが、実態上音楽業界の被害が大きいということで裁判沙汰になりマスコミでも大きく取り上げられた。

 MPEG-2の音声圧縮技術としてAAC=Advanced Audio CodingがSony, Dolbyなどの努力で1997年に生まれ、MP3より30%少ないデータでSurround音を含む多チャネルがサポートされるようになった。日本ではBSの仕様となり、CSも追加採用して、ディジタル放送の音声の主流となった。

 一方Microsoftは、MP3の半分のデータでよく、しかも著作権保護に便利とするWMA = Windows Media Audioを1999年に発表、2000年から各機器が対応しNapsterもこれをサポートした。

 最近は圧縮コード化されたCDも(通常のCDも)演奏できる携帯用CD Playerが出ていて、音楽CD 10枚をPCでCD-R 1枚に圧縮して持ち歩ける。私はRio800というICメモリPlayerを買った。MP3, AAC, WMA対応で124MBのメモリを積むから2時間余の音楽を詰め込める。付属ソフトでCDをMP3化することも、WebからDownloadすることも出来る。Web上の音楽はシャカシャカする音楽ばかりかと思ったら左にあらず。www.listen.comというPortalがあって、あらゆる音楽を検索入手できる。Rioと提携関係のRioportという会社のPortalもある。そこから引くと例えばSchubert Winterreise Fruhlingstraumが4分15秒4MBで$ 0.99、Tango de Miloが4分31秒4MBでこれは無料。だけどウチのPCのModemでDownloadしたら音楽購入代金とNTTへの電話料金が同程度になりそうだ。ここでも通信後進国はつらい。

 Downloadした音楽を演奏するためにPC接続が可能なステレオがSonyから出ている。「Sony以外には?」と聞いたら、「Sonyは総合メーカですが他はオーディオメーカですから無理ですよ」という面白い答だった。

 ともあれ、これら全く新しい世界の広がりに驚愕した次第。 以上