「日本の輝き戻らない」
8月2日の朝日新聞夕刊に「日本の輝き戻らない」という大見出しがあった。New York Times東京支局長を95年1月以来最近まで勤めたNicholas D. Kristof氏が、日本の理解を総括した長文のSpecial Reportが8月1日のNew York Times第1面に掲載され、「日本はもう駄目」とレポートしたのを朝日新聞New York支局が要約紹介した記事であった。早速Internetでその晩New York Timesにアクセスして原文を入手した。
日本の問題は今の経済危機とかではなくて、長中期的には人口減少と旧体制救済への出費の2つにあるという論旨である。長さの調整で2つのレポートになっているが連続的な内容である。その第1はEmpty Isles Are Signs Japan's Sun Might Dimという表題で次のような内容であった。
日本の人口は2007年まで微増するがそれは寿命伸長の結果であって、労働人口は1995年をピークに減少し、2100年には人口そのものも67 Mに落ち込む。インドと香港の対比のように経済の質が異なれば人口と経済規模の関係も変わってくるが、日本の経済が変わらないとすれば人口減少に従って規模は減少し、しかも労働人口が1/3の非労働人口を支えるから、世界経済の伸長の中で日本は取り残され「中規模経済国」に脱落する。
日本の来世紀の姿を彷彿とさせるのが五島列島の赤島である。かっては300名の人口があったが、都会に流出して今は5名になった。勝者を育成(Picking Winners)する一方で大規模な社会保障制度を整備する世界の趨勢に反して、日本は敗者を助け大規模に補助している。赤島で$ 2.5 Mの港湾整備が始まり、年間0.49 Mの補助金で赤島と黄島(おうしま:70名)への毎日2便のフェリーを維持し、電力供給の海底ケーブルを2本整備した。海底電話ケーブルも、郵便も、診療所も然りである。黄島では3人の小学生に6人の先生が居る。と第1レポートは論じる。
第2レポートは、上記を受けてA Future Hampered by Past's Subsidiesと題されており、次のような内容であった。
赤島のようなことをするから日本の税金と公共料金は高く、電話料金がInternet普及を遅らせている。法律上本の値引きが出来ないからInternetで書籍販売業が育たない。東京都内で出す郵便料金が高く米国から東京に出す方が安いから、郵便が外国に逃げ始めたが政府はこれを禁止した。
日本全国で銭湯はもはや存在意義を失っているが、年間 $ 100 Mかけてインドネシア並みの生産性の産業を存続させている。地方優遇の理由は、選挙制度の歪みで都会より地方に大きな発言権があるからである。参議院では鳥取と東京では1対5の差がある。市場原理に反する保護が過ぎると経済伸長が阻害される。日本人は弱肉強食を許容できないため弱者に補助するが、こういうDisney Movieのような甘さは段段難しくなっている。
米国の強みは世界のタレントを移民で受け入れて国を富ませていることだ。もし東京が全力を上げてこれをやればアジア経済の中心になることは間違い無いが、日本にはそれが出来ない。
子供を産んでも夫が面倒を見ないから、妻の自覚と地位の向上に従って少子化が進んでいる。移民も出生率向上も出来ないので人口が減少する。高齢者と女性の労働人口への取り込みで一部助かるが大勢は争えない。日本の将来は赤島のようになるのではないか。という論旨である。
成る程4.5年でここまで見抜いた眼力はさすが支局長を任せられた人だけのことはある。景気対策の一環で、田舎の谷を下って渡る旧道の代わりに壮大な陸橋建設が進んでいる場所を私は少なくとも3個所八ヶ岳と高遠で知っている。土建屋さんはホクホクだろうし、地元の人には便利になるし、私も時々使うから文句はないが、費用対効果から見て会社なら絶対やってはいけないことである。家計でもやらない。景気対策でどうしても使わねばならぬ金なら、光ファイバー網を巡らせ、小中学校にパソコンを大量に配り、英会話が出来る教師に増給した方がよほど国のためになる。それより土木工事が優先する唯一の理由は自民党の票になるからであろう。現在の政治のメカニズムが続く限り日本経済の雄飛はないことは、共産主義体制下で経済が停滞したのと同程度に確かなことと思える。 以上