うつせみ
1998年 11月19日

             流星

 物好きの虫がまた騒いで、八ヶ岳にしし座流星群を見に行った。群とは言い難い出現数だったが、毎分1個ほどの流星を計1時間ほど見た。

 11月17日の夕食中にはまだ迷っていた。流星群が来る18日早朝は東京は晴れるらしいが、明るい夜空の東京より八ヶ岳の方がよく見える。しかし長野県の曇りの予報が当たると元も子もない。テレビ、Internet、電話の天気予報を総合判断し、八ヶ岳周辺、少なくともその東側は晴れると賭けて、物好きな奥様と一緒に夜の中央道を西行した。車が甲府盆地に入ると既に快晴だった。八ヶ岳が曇ればここまで来ようと双葉サービスエリアの駐車場に目をつけた。しかし八ヶ岳の山小屋に近付いても星空は見事だったのですっかり安心して「堂々日本史」を見て寝た。

 3amに目覚ましで起き、厳重に身支度して外気温1度に確信を持って出てみると、なぜか星一つ無い曇天だった。落胆しつつそれでも最悪双葉まで行けば晴れているだろうとワイフを急かせて車に乗り込んだ。山は雲を発生する。山の斜面で生じた上昇気流が原因だ。そういう雲なら麓まで下るか山の風上に回り込めば避けられる。その期待は当たった。行くほどにフロントガラスから段々星が見えてきた。ただ世の中には物好きが多く、この夜更けに山中に行き交う車の多いこと。

 八ヶ岳南麓に鹿の平という今でも鹿の出る高原があり、その一角が開墾されて農道が星の観測には理想的である。3:20頃車を降りると目の前にしし座があった。近所の別荘族が庭椅子を持ち出して特等席を作っていた。「どうです?」と聞くと「ボツボツ来てます」という。話しているうちに一つ星が流れた。久し振りに流星を見た。見ていると平均毎分1個ほどの流星がある。但し、しし座を基点に放射状にひろがる場面を想像していたが、軌跡は放射状らしいのだがしし座とは遥かにかけ離れた全天に分布する。だからしし座に向いて立っていても流星の半分も見えない。用意した寝袋を地面に置いて天頂に向かって寝転ぶとよく見えるようになった。これで夜明けまで頑張るぞと一旦は決心したのだが、山頂から伸びた雲が少しずつ広がってしし座を覆いそうになってきたし、全天のかなりの部分が既に覆われてしまった。選択肢はもっと山から離れるか、山の東麓に回りこむかである。迷った末に後者に賭け、30分ほどドライブして清里の上にある「まきば公園」に移動した。以前から星空とのお付き合いでよく利用する理想的な観測地である。見ると期待通りほぼ全天に星が見える。既に百台からの車が駐車している。今回は星オタクばかりとは限らぬらしく、暖房つまりエンジンをかけたままの車中で星を見ようという不心得者も多く、また星空をフラッシュを焚いて写真撮影している人がいる。流星が流れる度に歓声を上げるグループや排気ガスを出し続ける車から離れた人気の無い場所に寝袋を敷いた。一度は人に踏みつけられそうになった。

 来る早々すごい流星痕を見た。流星でガスが励起してしばらく軌跡が光っている現象だが、上空の風のために軌跡がカーブする。この時見えた流星痕は半円の先がトグロを巻いて30秒以上も光り続けた。幸いこの日は空が澄んでいて、西に傾いたオリオン座の星雲が肉眼でも見えるほどだった。ワイフは北斗七星のひしゃくの柄の先端から二番目の二重星が肉眼で二つに見えるという。視力が自慢のワイフもついに乱視になったかと驚いて聞いて見たが他の星はちゃんと一つに見えるというので安心した。この澄んだ暗い夜空に右に左にあるいは明るく、あるいは見えるか見えないほどの暗い流星が飛ぶ。それでも毎分1個程度である。

 ワイフが動く星があるという。まさかと思ったが人工衛星らしかった。時間をおいて2つほとんど同軌道で飛んだから、Iridiumかも知れない。全世界通話可能な携帯電話サービス用の低軌道の衛星である。

 その内に「雨のように降る」流星群が見られるかと、寝袋に入っても寒い吹きさらしで頑張ってきたが、5時を回ると東の空が白んできて流星の間隔も遠ざかったので退散した。6時に八ヶ岳を発てば知らん顔して出勤できるはずだったが、ワイフが1時間寝ないと病気になるというので不本意ながら小一時間会社には遅刻した。物好きな一晩であった。  以上