テクノうつせみ
1997年 4月 29日

             Multicasting

 Multicastingという言葉を最近知って驚いている。

 11月にTBSが幕張にスタジオを作って紺野美佐子出演のInternet放送をした。しかしStreamworks方式で数センチ角の動画が間欠的に動くだけで紺野美佐子の美形も台無しであった。通信回線速度から見ればもっと動いていいはずである。ご承知の通り28.8 kbpsのモデムでInternetを使っても通信速度が1 kB/sを超えることは滅多に無い。理由はサーバ側の渋滞である。放送のように同一内容を送り出す場合であっても、WWWのサーバは一人一人に対して別々に情報を送り出すという非能率的なことをするから、要求が増えると一人一人へのサービスが急速に低下する。WWWサーバはオンデマンドで動くから、任意の時間に任意の内容を送り出せる仕組みになっている。それを同一内容を同時に送り出すことに使うのだから能率が悪いのは当然である。

 放送は周知の通りBroadcastである。それに対してMicrosoft社はInternetのような1対1の通信をUnicastと呼ぶ。Unicastはオンデマンドには必須だが同一内容を多数に届けるには非能率である。Broadcastは同一内容を全員に届けるには便利だが、必ずしも全員ではない場合には非能率となる。電波で届ける場合には嫌も応もないが、有線で届ける場合には見てもくれない人のために情報を送り付けると、通信回線の帯域幅を無駄に浪費したことになる。

 この両者の欠点を補い両者の中間に位置するのがMicrosoft言うところのMulticastである。(発明者はStanford大学の先生で昔からある概念だと。)送出側では同一内容を個々に向けて何度も送り出す様なことはせず、Broadcastと同様1度しか送出しない。しかしBroadcastと違って全員に送り付けるのではなく、予め登録したメンバにしか届けない。そんな手品のようなことがなぜ出来るのか?

 Multicastをやる場合、まずその内容や時間を全員に周知し、受信するか否かの判断の機会を与える。受信したいと思う人は、受信グループに加入する形でメンバ登録をする。グループは動的で、番組が始まってから慌てて加入してもよいし、しばらく見てから脱退してもよい。

 メンバ登録をすると、最寄りのRouterに「xxグループ向けの情報が来たら送ってね」という登録がなされ、端末側でもIP番地を細工して「xxグループ向けは受信する」ようにしておく。Routerと送出サーバとの間に更に別のRouterがあるならば、そこに「私(Router)の管轄下にメンバが居るからxxグループ向けの情報があったら送ってね」と頼んでおく。このようにすれば登録されたメンバにだけ情報が送られ、関係ない通信回線やRouterには情報は流されず、帯域幅を浪費することはない。ではRouterが無くてサーバに全員が放射線状に接続している時はどうなるのかだが、サーバがRouterを兼任するのであろう。Ethernetのような放送型の回線の場合は、メンバ数だけ何度も送り出すのではなくグループ名で1度だけ送り出すのを受信側で気を利かせて受け取るのであろう。

 紺野美佐子の画面が思い出したように動く間欠動作になった例でも、サーバはもしかしたら高速回線1本でInternetに接続されていたのかも知れない。それでも全国のInternet Providerから入ってきたユーザがその1本の高速回線経由で要求すると、サーバは一生懸命一人一人に向けて同一内容のパケットを作って1本の回線に送り出したはずである。それがUnicastである。Multicastでは1回しか送り出さないで、配達は途中のRouterに任せるという分散処理になる。

 Microsoft社のMSNの主体を担うUUNETや、Ciscoの最新Routerは既にMulticast対応になっているという。対応していないサブネットを通過する場合には仕方ないからUnicastで通過する。実は米国で昨年11月にMSNでBill Gatesの演説をMulticastで流したのが最初の大規模実験であったという。興味のある方は

www.microsoft.com/corpinfo/staff/speeches/craig/nab97.htm
www.microsoft.com/netshow/eval/multiwp.htm

辺りを参照されたい。Internetと放送の境界が怪しくなってきた。 以上