うつせみ 
1998年 2月21日

            世界蘭展98

 今年も世界蘭展に出掛けた。毎年2月下旬に世界二十数ケ国からの出展で東京ドームを満杯にして行われる。前売り入場券が新橋のチケット屋で千五百円で出ていたのを買い求め、ワイフと楽しみにしていた。その後米国出張が決まってみると、初日2月21日(土)にしか行けないことが分かった。前日に審査が行われるから、初日には年頃の花盛りを見ることが出来る。花の命が長い蘭だがそれでも一週間も経つと年増の花や「遺影」を飾ったコーナが増える。当然ながら初日は混むから早く行くに限る。早起きして9時30分開場の15分前に東京ドームに到着したら早くも長蛇の列だった。関東方言が優勢だったから観光バスで乗り込んできた近県の蘭栽培者・愛好者が多いらしい。初日は四万五千人が入場したと聞いた。

 一番混む場所は会場中央の入賞鉢のコーナと、Fragranceつまり香りの蘭の優勝鉢が穴の開いたプラスティックの箱に入っている場所であるが、まず前者に直行したので幸い近くで見ることが出来、多分よい撮影が出来た。会場一番の鉢には、乗用車の副賞がつく「日本大賞」が贈られる。一昨年はカトレヤ、昨年はパフィオペデュラムLady's slipperであったが、今年は胡蝶蘭が日本大賞に輝いた。2本の花茎に等しく18輪ずつ計36輪もの白い大型の花が全て正面を向いている絶世の美形であった。

 入賞鉢コーナに今年は東洋蘭が多かった。シンビジュウムの一種である東洋蘭の花は、本来は平安美女を思わせる緑色の慎ましいものだが、突然変異のピンク系紅色系が珍重されて近代美女化している。その他、枝垂れ状のシンビジュウムやオレンジ色も鮮やかなカトレアなどが目立った。私は単に美しい花を鑑賞しているだけだが、自分で鉢を手塩にかけて苦労している人にとっては立ち去りかねる羨望のコーナなのであろう。

 入賞鉢コーナに至る正面入り口は例年一種類の蘭をテーマにしたゲートウェイになっているが、今年はオンシデュウムであった。シンガポール土産で蘭の花を金メッキしたブローチなどを買ってきたとしたら多分その花である。生け花や花束で量感を出すために白い霞草が使われるが、最近高級な生け花の場合は群れ咲いた黄色い蘭の花が使われる。その花である。真っ黄色な花が無数に咲く姿を蝶に喩えてButterfly Orchidとも言うし、花一輪をよく見ると両手を左右に広げたロングスカートの女性の形をしているからDancing Ladyとも呼ぶ。この花を無数に鏡作りのゲートに飾ったから、紋黄蝶に囲まれて入場するようで印象深かった。オンシデュウムは南北米大陸の熱帯の原産で黄色く群れ咲くのは比較的原種に近い。

 会場には単品の鉢のコーナと庭園展示コーナと、それから即売店コーナがある。例年よりも店が占める面積が増えたようだ。単品のトップクラスは会場中央に展示されるが、入賞鉢の多くは外周に品種ごとに展示される。同じ品種でもこんなに形が違うものかと感心しながら、それぞれの美の主張を楽しむことが出来る。

 庭園展示は一坪ないし数坪に想を凝らした蘭の庭園を造って出来栄えを競う。PRを兼ねた外国の蘭生産社からの参加が多く、お国ぶりを楽しめる。洋蘭が自生するというタイの山奥の写真を無造作にピンでとめて紹介しながら樹木の枝に宿る蘭の姿を展示したコーナもあった。千葉県の業者は「夢のかけ橋」と銘打って枝の上に蘭を並べた展示をした。アクアラインでどうぞおいで下さいということであろう。

 今年は即売店で2鉢買って帰った。一つは 10 mmほどの微小な黄色い花が無数に付いたオンシデュウムで、多分これは野生に近くあまり手をかけなくても毎年自然に咲いてくれそうだ。もう一つは、2年前に姿に惚れ込んで買った中央が紫の白いカトレアが、発病して駄目になってしまったので、同じ種類のもっと健康そうなのを購入した。

 NHK-BSが、オンシデュウムを髪に派手に飾ったジュディオングの出演で長時間を割いてこの催しを取り上げ、栽培者の声を紹介した。一番難しいのは審査に合わせて咲かせることだそうだ。自信があったんですが間に合いませんでした、残念です、といった声があった。何事もここ一番というタイミングで成果を上げることは難しいものだ。       以上