テクノうつせみ
1998年 9月24日

            相対性理論

 Alameda出張最終日の夜遅く迷い込んだ本屋で、EinsteinのPrinceton大学での講義録を本にしたAlbert Einstein著 The Meaning of Relativityという166頁の小冊子を買った。MJB Books, NYの出版で特価 $6.98だった。こういう本物には必ず何かがあると信じて買った次第である。

 1902年以来スイスのベルン市の特許庁でアルバイトをしながら博士号への試験準備をしていたEinsteinは、1905年特殊相対性理論をドイツで発表した。一般相対性理論は1916年である。1919年に太陽の重力で星の光が曲がることが確認され、それがEinsteinの一般相対性理論予測値とピッタリだったので時の人となり、2百年来のNewtonの古典力学が覆ったと大騒ぎとなった。しかし学界では中々素直には認めて貰えず、1921年のノーベル賞も光電効果の理論に対してであった。同年Einsteinは米国Princeton大学に招かれて4回の特別講義を行った。翌年その講義録が出版され、初めての英語文献として関心を呼んだ。1933年にEinsteinはナチに追放されて米国に亡命し、Princeton大学高等研究所に身を寄せた。その間何度も講義録は改定され1955年没の翌年の第5版(=この本)まで続いた

 機内で斜めに読破した。以前米田氏のアドバイスでHawkingの A brief story of timeという宇宙物理の本を機内で読んだが、数式を1つ書く度に売上が半分に減ると言われたとかで、数式皆無の本だった。ところがこの本は講議録だから数式だらけでテンソルまで出てくる。売上が(1/2)**100ほどになって特価本になり下がったのも道理である。ただ機内でのボケた頭で数式を細かく追うことを諦めた途端に楽しい読み物となった。

 4回の講義だから4章から成る。第1章は古典力学の時空間の復習だ。数学者は公理上に構築した理論に矛盾がないかだけを問題にするが、物理学者には理論が知覚に合致するか否かが問題で、物理学の本質は「知覚に合致する理論の構築」だという。相対性以前の物理学では、30cmの物差し(これは私の比喩)を当てがって丁度同じ長さだった物体(つまり30cmの物体)は何時でも何処でも物差しの長さに合致する(つまり30cmである)とか、同様に時計の1単位(1秒とか)の動きは誰から見ても同じに見えることになっている。宇宙規模に比して充分小さい我々の周辺の事象の知覚はこれと全く合致するからNewton力学は金字塔となった訳である。

 第2章は特殊相対性理論である。慣性座標系(加速度ゼロ)で光速を測定すると、近づく光源からの光は速く遠ざかる光源の光は遅いはずなのに、どう実験しても光速は一定という結果が出てしまう(波長は変わる)。不思議なようだが、近付く船と遠ざかる船からの水面の波の速さや波長の関係から連想すればよい(松下の注釈)。実はMaxwellの電磁方程式は光速不変の性質を示すので、この方が正しいということになった。この光速の性質に合うように時空間の方程式を考えて行くと、
   Δx**2 + Δy**2 + Δz**2 = c**2 * Δt**2
となり、空間の3次元と時間の合計4次元で事象を捉えることが必要になり、時間と空間は相互に影響し合い、30cmがいつでも30cmとか1秒も誰から見ても1秒とは言えなくなる。特殊相対性理論の誕生である。これは大学の教養課程で習う。こう理路整然と説明されると至極ごもっともで、Einsteinでなくても私でも理論構成できそうな気がしてくる。

 第3章の一般相対性理論は、慣性系でない加速度のある座標上の理論である。慣性座標Kの上で慣性運動(加速度ゼロ)をしている物体を、加速度のある座標系K’から見ると、逆に物体が加速度を持つように見える。これはK’には重力の場があると考えるとスッキリまとまる。加速度のある座標上で静止している物体は長さも時間も変わるから、加速度のある座標を重力の場がある座標と見なすには、重力が時空間を曲げることにしなければならない。微小部分では特殊相対性理論が成り立つと考え、それを積分すればよいのだが、テンソルになってしまうので機内の読み物の世界ではなくなる。第4章はその数式展開になっている。

 $6.98のお陰で10時間余の旅は、出張のウサを忘れ退屈しなかった。やはり本物には迫力がある。一世紀近く前の論文なのに。     以上