星の季節
星を見るのに一番適した季節は空気中の水蒸気が減る極寒の季節だが、怠け者にとっては空が澄んでそれほどまだ寒くない秋の夜空が最適妥協点になる。
最近帰宅時に南西に驚くほど明るい星が見える。太陽系最大の惑星木星である。えっ?宵の明星、金星じゃなかったの?という人も居るが、金星はもっと太陽に近いから、この冬ボーナスが貰えるかどうか判らないサラリーマンの帰宅時に、太陽が沈んだ直後の西の空に見える(はずだ)が、ボーナスが貰えるサラリーマンが帰宅する頃には沈んでしまう。南東の空には木星ほど明るくはないが土星も光っている。双眼鏡では無理だが簡便な天体望遠鏡でも輪が見える。
都会の空は明るくて夜でも青空に白い雲が浮かんでいるのが見える始末だから暗い星や星雲などはとても見えないし、天の川を見たことがある人も意外に少ないが、惑星はまだ都会でも充分観測できる。
10月下旬Californiaの州都Sacramentoに近い弊社社長の葡萄園Wilderotter Vineyardで本年と来年の事業目標のOff-Site Meetingがあった時には、羨ましいほどの理想的な暗い夜空があり、木星が肉眼でも円盤に見えそうなほど明るかった。毛利元就はオリオン座の三つ星を氏の星としたとはNHKドラマの創作かも知れないが、「ほらあのWがうちの星だ」と社長の旦那さんがCassiopeia座を指して言った。「あれはMでうちの星だ」と負けずに言えば良かったとは後知恵である。CasioがWindows CEマシン「カシオペア」を出したと聞いた時には"s"が一つか二つかに興味を持ったが、星座名そのままのCassiopeiaであった。
在米中にUSA Today October 22で興味深い記事を読んだ。我が銀河星雲と最も近いAndromeda星雲が互いに衝突するCollision Courseにあるという。北極星をCassiopeia座のWから見付ける方法は有名である。最近の夜空ではWは北極星の右上にある。Wから北極星とは正反対の方向に半分強はなれた天頂に近い場所にAndromeda座があり、そのW寄りにM31という番号のAndromeda星雲がある。都会では無理だが空の暗い場所で見れば肉眼でも4.5等星相当の星雲特有のボンヤリした光を見ることが出来る。望遠鏡で見ればフリスビーを30度の角度で見たような楕円形の渦巻きである。距離220万光年で直径10万光年だから視角が2.6度もある巨大な存在である。因みにAndromedaは、北極星とCassiopeiaの間に位置するCepheusケフェウスを父とし、Cassiopeiaを母として生まれた娘である。
一番近いとは言っても220万光年だから、例え光速で近付いても衝突は220万年先だが、実際は秒速 130 kmで近付きつつあり、衝突は50億年先だそうだ。それでも、一旦かすめて通り過ぎ1億年後に戻ってきて本当に衝突すると計算した人がいる。今度Andromeda星雲を見た時には少し大きく見えるに違いない。
この話が新聞に出たのには理由があって、宇宙から天体観測をしているHubble望遠鏡が最近衝突中の星雲の写真を送って来たからである。春の宵に見えるカラス座にある星雲M104である。残念ながら私はM104を見たことがなく私の10cmの望遠鏡で見えるのかどうかも知らないが、新聞には地上からの映像としてハート型の星雲がガスの尾を触覚のように2本出している写真が掲載されていた。Hubbleから見るとこのハート型が実は衝突中の二つの星雲なのだとその拡大写真が大きく載っていた。二つのオレンジ色の星雲の核がガスと星群を引き連れて合体しつつある。但しこの衝突が完了して新しい定常状態に達するには5億年もかかるというから、このショーを終演まで見届ける訳にはいかない。
星雲には2種類ある。8割方は我が銀河星雲やAndromeda星雲のような渦巻き型で、風車状の尾を引いている。2割の星雲は尾はなく密度の高い楕円形をしている。天文学者は、渦巻き星雲が二つ衝突融合すると楕円星雲になると言い始めた。その証拠に遠い星雲ほど楕円形のものが多く、遠くでは1/3を占めるという。宇宙がまだ若かった頃爆発膨張が充分でない密度の高い状態では星雲同士の衝突融合の確率が高かったから、多くの楕円星雲が生まれ、その後の膨張で我々には遠くの星雲として見えているのだという説明である。
衝突融合するとなぜ楕円形になるのかは書いてなかったが、Hubbleの写真では逆回転の星雲が一体化しているようだ。そうでなければ触覚形の尾が2本逆カーブで出るはずがない。回転モーメントが相殺されて差分が残り密度の高いコンパクトな星雲が出来るのであろう。
再び来た星の季節に科学的な浪漫を満喫したいものだ。 以上