うつせみ
1997年12月30日

             テレビを買った(その2)

 既報のような経緯で松下電器のご好意で同社のテレビを買った。今迄14年間使った前機種を横に倍にしたような外形となった。ワイドテレビだが、2画面でも縦横比を正確にキープするモードがあるのは嬉しい。

 同軸ケーブルを自分で作ってきちんと配線し、少し曲がっていたパラボラを直すと、地上波も衛星波も非常に奇麗に映るようになり我が目を疑った。従前より画面が奇麗になると迫力が全然違うことを自覚したのだが、これは予想外のことだった。門外漢の悲しさで、テレビの画質は電波で決っていて、HiVision以外は大同小異と誤解していたからである。

 HiVision=Muse(走査本数1125)ではないが、通常画面=NTSC(走査本数525)でHiVision番組を受信するM-N Converterが付いているので、初めてBS-9が見えるようになった。但し通常のBSチャネルよりもややザラついた画面である。しかしこれで得た1チャネルの内容は意外に面白い。NHKが半分、あとの半分は民放各社がWowowにテープを持ち寄って衛星に送り出す番組だが、オリジナル制作番組にせよ自社番組をHiVisionで同時録画した番組にせよ、各局の自信作を持ち寄るらしくかなり見ごたえがある。制作側がHiVisionだから画像を美しくと意識して作った画面の色彩の組み合わせと構図が、写真と油絵を趣味とする私に訴求するところが大きい。

 2-3日過ぎてから私は首を傾げ始めた。前のテレビと何が違ってこの迫力の差になるのだろうか。画面サイズだけではないような気がする。既報では1チャネルだけの画質のためにHiVision受像機は買わないと言ったが、もしかしたらそれは持たぬ者の誤解で、実はHiVision受像機だったらもっと大きな満足を得ていたのではないか。そこで移設するつもりで外してあった前のテレビをもう一度つなぎ直して両方の画面に同一番組を表示して1日試してみた。「色が鮮やかになったのよ」とワイフが言うから出来るだけ同一色調になるように調整してまた眺めてみる。どうも焦点のシャープさが迫力の差になっているようだ。我が家は山あり高圧線ありで電波状況はあまりよくない。前機種は注意深く見ると僅かながらゴースト的に画ににじみがあるのに対して新機種は真にシャープな画像になっている。新機種のパンフレットを見るとゴスト消去回路と、色彩のサンプルを画面から採取して実時間で調整する回路が組込まれている。

 ご苦労なことに、近くのヤマダ電機にわざわざ出掛けて、ずらりと並んだ各社のテレビを片っ端から検証してみた。画質はソニーのTrinitronが他方式よりも奇麗に見える。Trinitron以外では色々な画質のものがあり、我が家の前機種も決して悪い方ではないが、新しく買った機種は格段に画質が良い方に属することが分かった。要は画質と値段はほぼ比例し、同一社の同一サイズの機種でも値段の高い方が、また新しい機種ほど画質はよい。多分CRTのコスト差とディジタル画像処理回路の違いであろうし、近年のディジタル画像処理技術の進歩が著しいのであろう。

 店頭でひときわ美しいのがもち論HiVision受像機で、森高千里の目が愛くるしく動いていた。確かにこれを持てば訴求力ある画面を楽しめる。ところでこれで通常放送を受信したらどういう画像になるのか、店員の目を盗んで数機種を操作し驚くべきことを発見した。高い受像機なのだから通常放送(NTSC)を受像しても通常の受像機よりは同等以上の画質だろうという素人の常識を裏切って、通常放送を見る限りHiVision受像機は通常の受像機(のベスト)よりも画質は劣るのである。何かザラつく。(メーカのHiVision拡販努力に水を差さぬよう付言すれば、それでも充分美しく、安い機種や古い機種とは比較にならない。)つまりテレビというものは走査線数を変えてはいけないのだ。金も無かったがHiVisionを買わなくて良かったと負け惜しみ半分で胸をなで下ろした次第。ディジタル放送では日本では3種類(1080-I, 480-P/I)の走査方式、米国では18種類が標準とされており、「走査方式の議論は無意味、このLSIを使えば方式間の変換は自由」という豪語も聞いたが、本当かいな。

 画質に開眼した。(1)テレビは画質で全然迫力が違う。(2)画質は値段と新機種度合いに比例する。(3)通常放送をHiVision受像機で受信すると通常受像機のベストよりも画質が劣る(それでも充分美しい)。  以上