テクノうつせみ
1997年 5月 29日

            Interlace or Progressive

 ディジタル時代のテレビは I = Interlaceか P = Progressiveかと盛んに議論されている。日本語では「飛越走査」「順次走査」と言う。

 日米で使われているNTSC方式のテレビの水平走査線は525本である。内490本ほどが実際には見えているらしい。525回水平走査する間に2回垂直走査が行われ、最初の垂直走査で262本と半分の水平走査が行われる。この半分がミソで、次の垂直走査は半分ずれて前回の水平走査線の丁度中間に水平走査線が入る。このために今までは水平走査線の数は必ず奇数でなければならなかった。 HiVisionは1125本だし、欧州規格では625本とか819本である。なぜか電源周波数に合わせて、日米ではこの垂直走査が60 Hz、欧州では50 HZで繰り返されるから、毎秒30または25フレームの画が描かれる。このように飛越して水平走査するのがInterlace方式で、パソコンのように頭から順次走査するのがProgressive方式である。

 人間の目は毎秒15フレーム以上なら動画として認識するが、毎秒24フレームの映画が安全な規格だという。ところがチラツキで目が疲れるので、この倍程度のフレーム数が欲しい。そこで Interlace方式では、1秒間に525本 x 30フレームの信号しか送らずに、目には毎秒60フレームに近い効果を与える。目の錯覚を巧みに利用した情報量節約の技術である。

 ではパソコンはなぜProgressiveなのか? 電波ほど帯域幅を気にせずに元々文字を表示したから論理的に簡単なProgressiveが自然だったのだろう。Video RAM以降の走査だけをInterlaceにしても信号の節約にはならない。Interlaceで送られてきたVideoをInterlaceで受けるためには、固定画面サイズ内で固定走査線数にしなければならない。これはWindowsの思想と真っ向から矛盾する。だからパソコンはInterlace放送を嫌う。

 素人考えだと、Interlace信号を重ねてProgressiveに変換するのはいとも簡単に思える。ところ が玄人によれば、静止画ならよいが動きのある画の場合奇数水平走査線と偶数走査線では時点が違うから画がずれてしまって鑑賞に耐えないという。変換するなら動きを検出した画像処理が必要で、それでも満足には行かないそうだ。だからMicrosoftを初めとするパソコン陣営は、放送局側 にProgressive採用を必死に呼びかけている。

 画質を問わなければよい。私は自宅のパソコンでよくテレビを見る。走査線数が違うから画面に等間隔に調整の跡が見えるし、動きはおかしい。でも個人で番組を楽しむには充分である。問題は、放送局がProgressiveにして、パソコンに合わせた走査線数にしてくれない限り、パソコンは大画面のファミリーテレビにはならないということである。

 ではなぜ放送局はInterlaceに拘るのか? 信号が節約でき、従って設備機器が安上がりだからである。HiVisionカメラがほぼ使える。

 米国FCCはDigitalテレビの規格を決めたとは言っても、小田原評定に業を煮やして次の18種類の走査規格のどれでも良いと決めてしまった。

      画素  縦横比  毎秒垂直走査数+I/P+後述の記号

    1080x1920 16:9    60I - * 30P 24P#
      720x1280 16:9     - 60P# 30P 24P@
     480x 704 16:9/4:3 60I 60P@ 30P 24P
     480x 640 4:3     60I 60P 30P 24P

このうち480x704は13.2 : 9 = 4.4 : 3という妙な画素比で、仲秋の名月が丸くなるか心配だが、2つの縦横比に対応するので計18種類である。

 これに対して、Microsoft, Compaq, Intelの3社は Digital TV Teamを作り、優先度を決めてやろうと働きかけている。つまり

  @ 印は1998年初め、# 印は1999-2000年に、* 印は2001年以降にと。

 放送局の方はABCが 720x1280 24Pでもいいと言っているだけで、NBC, CBS, PBSはいずれも 1080x1920 60Iを譲りそうもない。Foxは現実的に、高品位TVよりチャネル数が大事だから 480x? 60Iで行きたいという。

 日米欧がそれぞれどう動くか面白い時代になってきた。    以上