今年も2月14日に会社で幾つかのチョコレートを頂戴した。魅力的な女 性からプレゼントを頂くなどは滅多に無いことだからつい浮き浮きする。 逆に期待していた人から貰えないと(今年はそれがあった!)、何か心証 を害することでもあったのだろうかと心配になる。高価そうなチョコレー トには大抵可愛いカードが入っていて、「日頃の感謝を込めて」などと美 しい筆跡で書いてあるのも嬉しい。と思ったが待てよ、これは「義理チョ コですから誤解しないでね」と読むのかな(冗談)。
当社でも段々男女比率が開いてきたので、女性にとって義理チョコをそ こら中に配るのは大変だと思うが、勝手なことを言えば頑張って欲しい。 頂く方の気持からすると、チョコレートの分量や値段よりも、何か頂戴で きることが一番の喜びであり、好意が感じられれば最高である。義理が見 える贈り物は無しの方がよい。「チョコレートは沢山貰われるでしょうか ら私はxxにしました」という人も居て、これも心温まる選択である。
米国の或る女性から聞かれたことがある。「日本では St. Valentine's Dayにどういう形で贈り物をするんですって?」「女性が男性にチョコレ ートを贈るんです。それに義理チョコというものもありましてね。」「や っぱり! Unbelievable!」 米国では男性が愛する女性に装身具などの 贈り物をすることを知っている私は、ニヤッと笑って「日本のチョコレー ト会社は Good Jobをやってますね。」
フランスでは1年365日(366日)それぞれに守護聖人が決まっていて、 原則として生まれた日(或いは洗礼日)の守護聖人名を命名する。2月14 日生まれの人の名はValentineである。カトリック教会が、殉教、生涯の 高潔、奇跡などの基準から敬うべきと考えて指名(列聖)した故人を聖人 =Saintと言う。聖母マリアはChief Saint、天使もSaintである。長崎で秀 吉に処刑された26聖人は記念碑になっている。Valentine聖人は西暦 270 年2月14日に殉教したローマの僧である。
キリスト教以前のローマ帝国の2月15日はLupercaliaという豊饒・多産 を祈るお祭で、青年が精力的な雄山羊に扮して町を走り回りながら道ゆく 人を山羊の革で叩いて回ったという。このお祭がキリスト教のSt. Valentineの日と一緒になったらしい。また鳥がつがいを作る季節なのでSt. Valentineの日が愛の日になったという説を聞いたこともあるが、日本で は「鳥の恋」は4月頃の季語で、欧州の季節にしても合わない。ローマ帝 国がまだ閏月を連発していたころのことであろうか。
鳥の恋諸枝を弾み上がりして 八木林之助
ともあれ中世の欧州では、St. Valentineが愛する人を守り不幸な恋人 同士を助ける聖人としての存在を確立した。St. Valentineの日は監禁者 でも愛する人に会える日であったという。近世に入って愛する人の間でこ の日にロマンティックなメッセージを贈る習慣が確立し、それに目をつけ た米国人が会社を興して1840年代に挨拶カードを売り出して大成功した。 近頃挨拶カードは日本でも盛んになってきた。大きな辞書には小文字の valentineという単語があって、1)この日に異性に贈る挨拶カード、2)愛 の印としての贈り物、3)贈る相手の恋人、などの意味が出ている。
だから女性が男性にプレゼントしておかしくはないのだが、女尊男卑の 米国では当然男性が愛する女性に贈り物をする日になっている。親しい秘 書などに「義理ブローチ」などを贈ることもある。これを女性がチョコレ ートを贈る日としたのは、日本のチョコレートのトップメーカである。仕 掛人がいつだったかテレビで白状していたから間違いない。女性からとし たところに成功の秘密があったそうである。ただこれほど義理チョコが普 及するとは予測もしなかったとか。それに気を良くして3月14日はホワイ トデイなどという発明も加わった。横文字だから西洋の習慣だろうと思っ たら大間違いで、日本独特のものである。
いやそうであっても無くても、女性からの贈り物は嬉しいものである。 しかし今年も一番重みがあったのは、やはり長年連れ添った愛妻からのチ ョコレートの一箱であった。 以上