うつせみ 

1997年10月 26日

                 葡萄園

 Wink社の社長Maggie女史は共稼ぎで、前から社長業とPilot業で稼いでいるから、10歳と13歳の息子2人では使い切れなくて、CaliforniaはSacramentoの奥に時価$2Mの40 Acresの葡萄園(東芝青梅工場が25 acres)を持っている。加えて前任地Seattleと現任地Oaklandに家があり、米人憧れの避暑地Lake Tahoeに別荘を持つ。この葡萄園で来年度の方針を討議決定する1泊2日の研修会をすることになり、日本でいう一段部長、米国でいうVP連が、敷地を見渡す丘に1軒だけポツンと立つ瀟洒なFarm Houseに押しかけ、10名で寝食を共にしながら議論を重ねた。

 議論は激しくしかし順調に進んだ。日本だとこういう時には社長が誰かを指名して司会させ、自分は一歩引いて参加するのだろうが、Maggie女史は常にフェルトペンを手放すことなく、パタパタと決めていった。

 ふと見渡して驚いたのだが、女性が4人(独身おばさん3名)である。この比率は米国でも珍しい。更に驚いたことに入社1年になったばかりの私が実は5番目の古株になっていた。これは今年1月に来たMaggie女史の仕業で、創立者がVPに並んでいたのを会長を残して全部クビか格下げにして外部人材で置き換えたからである。私は「(前)社長にレポート」の約束で入社したのだが、事実上は間にNo.2格の創業者VPが居た。早くも3月にはMaggie女史から直接レポートにしたいがどうかと言われた。結構なことだがVPはどうするのかと聞いたら、お前の下に付けたいのだがという。恩義あるNo.2のVPをそれも上下逆転形は困る、それだけは勘弁してくれ、充分サポートするから今のままでと日本の常識で頼んだのだが、結局そのVPは2段階降格して一番若いやり手のVPの部下にされてしまった。どうせ上下逆転なら私に付けてくれた方が面子が多少は立つようにやれた気がして後悔している。Maggie女史だけでなく米国は一般にその位厳しく、実力のみがものを言う明日の保証が無い世界である。

 日本でこういう研修会をやると、参加者の中にこの人がトップだったらよかったのになあと思う人が一人や二人居るものである。また逆によくこの人がここに参加できるもんだと思う人も居るのが普通である。ところが我が社のような米国ベンチャではそういう感じがない。

 また日本の会社の研修会では、個人的な演出、外交、作戦を感じることが多々あるのだが、それもあまり感じなかった。つまり若干誇張して言えば年功序列が無いから上司より能力のある人が部下に居るはずがなく、クビ切り自由だから地位に相応しくない人が居るはずがない。一生同じ会社で同じ顔触れで業績を稼ごうと思うから政治外交が大事になるが、嫌ならオン出るつもりで、転職が出世のチャンスという認識に立てば、社内での政治外交の必要性は小さい。日本も従業員は別として幹部は終身雇用をやめて米国流にしないと国際競争に勝てない気がする。日本ではその会社に長年居るからこそ役立つ一般市場性の無い幹部が多すぎる。

 米国では自由競争で地位も給料も決まる。株主の代表である取締役会は、少々高給を払っても会社が良くなればその方が得だから、優秀な人を獲得しようとする。ダイヤモンドは重さの二乗で値段が決まるしモデル料も美人度の二乗で決まる。希少価値に値段がつくからである。同じ原理で米国のトップの給料は高い。但し我が社のような会社では社長も多分薄給だろうが、その代わり莫大な成功報酬が得られるStock Optionがある。

 当社の会長は前の会社のStock Optionでシコタマ儲けたので一生食える金を手にし、今は趣味で仕事をしている。最近広大な邸宅用地を購入し、$8万のPorcheを買った。日本だと富の格差は嫌みになるが、米国ではそれを見て俺も俺もと皆で一生懸命働く。それが米国ベンチャの活力である。CaliforniaではまだGold Rushが続いていると思えば間違いない。

 私程度の英語でも米国でやれそうな気になってきたし、私のWorking Styleは日本より米国に合うと思うものだから、もう10年早くこの世界に入っていたらもっと自己発現も出来たし私でも葡萄園の真似事位は出来たかも知れないと、やり直しのきかない人生を思うこともある。転職1年の感想は踏み外した後悔ではなく、幸い逆の後悔である。     以上