うつせみ
1998年 6月27日

             体重

 昔岡野本部長(当時)とご一緒に欧州旅行をした時「ケンタンカですね」と言われた。初めて聞いた言葉に戸惑ったが、「健啖家」つまり何でもよく食う意地汚い奴ということを美しく言っただけと分かった。私が育ち盛りの時には芋粥をもう一杯食べたいと思ってももう無かったし、大学の時でも10円のパンを横目で見て節約した思い出もある。ひもじい育ち方をしたから出されたものを残すなんてとんでもないことだ。ピーマン以外は何でもパクパク美味しく食べる。それで太りもしなかった。

 5月末に人間ドックで"All A"を貰ったのは立派だったのだが、遂に言われてしまった。「昨年と比べて 1 kg太りましたね。それは良いとしても一昨年から昨年にかけて 2 kg太ってますから合計 3 kgですね。このまま太り続けると命が縮まりますよ。」 いや縮まっては困る。

 体重管理は可視管理の典型例であろう。今までワイフともども体重など気にしたこともなかったから仕舞いっぱなしだった体重計を取り出した。ところがこの体重計はディジタルなのは良いが最小単位が 0.5 kgで、一番下の位には0と5しか出ない。これでは可視管理にならないから、体重計を買いに行った。昔の体重計は正確かどうかは別にして乗ると円盤がグルっと回って或る位置を指すから、心眼で何桁でも読み取れたものだが、今はほとんどディジタルになっていて、心眼が通じない。そこで初めて知ったのだが、家庭用の体重計では安いものは全て 0.5 kgが最小単位になっている。少し高いもので 0.2 kgとなり、 0.1 kgのものはあまり無いし高い。0.1 kgのものもかなり無理しているようで、乗り方によって 0.2 kg位はすぐ変わる。でも仕方ないから大枚 \ 15 kで 0.1 kgのものを買って帰った。勿論文房具店で方眼紙を買うことも忘れなかったし、万歩計も買った。万歩計は今までに2つほど景品として貰った覚えがあるが関心がないうちに無くなってしまったから。もう一つ白状しておくと、東急ハンズでAbflexという腹筋(abdomen)を鍛える簡単な道具も買ってきた。その心は確かに最近腹筋が緩んできたかなと感じたからである。お腹のダラリと出たおじ(い)さんはあまりカッコよくないし、私の趣味に反する。

 以来朝晩ラジオ体操をし、腹筋を鍛え、雨や体力的に無理でない限り朝晩自宅から駅まで3300歩30分弱歩くことにした。何よりも健啖家を返上して食べ過ぎないようにした。お陰で1ヶ月で 1 kgは減ったかに見えるが、そう無理もしていないせいかあまり顕著ではない。十数kgも減量したという人を改めて尊敬している。ただ腹筋は自覚できるほど回復してきた。

 太った原因は大体分かる。長年2時間近い通勤をしてきて、しかも夕食は会社の近くで取って帰っていた。東芝では社用車を頂いていたがほとんど使わなかった。電車通勤は全身運動だ。太極拳と似た効果があるのではないかと思う。それに長年の鍛練で立ったままでも読書や著作に打ち込める。2年前から勤めが府中になり、自宅で夕食をするようになった。料理好きで食べて貰うことを喜びとするワイフと健啖家が夕食を共にしては相性が悪い。就寝時の余剰エネルギーは全て贅肉となる。

 食事(1食)も排便もおよそ 0.5 kgのオーダである。面白いことに質量の出入りが無いはずの就寝中に体重は 0.2 kgほど減る。考えてみると呼吸の排気は吸気より重いはずだ。1分間 0.1 Molの空気を呼吸して、その20%相当が 1 Mol 32gの酸素で、それが排気では1/2 Mol 22gの炭酸ガスと 1 Mol 18gの水に変わるとすれば、1分間 0.16gの体重を失い、一晩で100g近くになる。しかし過半は発汗と呼吸での水分の放出であろう。

 まだ何をすれば太ったり痩せたりするのか相関が充分判っていない。熱海の旅館で腹一杯食べた時と、新宿でシャブシャブを満喫した時は確かに体重は増えたが、焼き肉やハンバーグを食べても、あるいは栗饅頭やアイスクリームでも、適量なら体重変化に有為の相関は無いように見える。

 山本英孝氏に先日「松下さんの部下になる人は幸せだ」と言われた。珍しくお世辞かと思ったら続けて曰く、「もうお年であまり先が長くないから、すぐ後を継げる。」 予言的中で山本氏を喜ばせてなるものかという反発を計算したこの暖かい激励に対しても応えずばなるまい。  以上