鼻で歩き、鼻ではね、あるいは耳で飛ぶ哺乳類がいた。 いやそれは序の口、もっと凄い奴等が南の島にいた。
とても信じがたいことではあるが事実である。 それに、これほど奇抜な生き物をこれほど綿密に記述することなど
空想でできようか。 「科学朝日」1992年2月号にも、この本をもとに復元模型を作った若い造形師が、
その模型とともに紹介されている。
オニハナアルキなどは4本の鼻で直立歩行ができ、 手と尾が自由に使えるようになっている。
それにともない脳もかなり発達してきており、 このまま進化すればいずれヒトハナアルキといった生き物が出現したかもしれない。
それにしてもこれらの生き物の非常識ぶりにも呆れてしまうが、
彼らを滅ぼした我々人類の非常識に比べれば大したことではない。 この本によれば、彼らは1941年にスウェーデン人に発見され、
以後多くの科学者の研究対象になったが、 ある秘密の核実験の影響により海底に沈んでしまったという。
実に悲しい結末である。
「秘密の核実験」がいつどこで行われたのか、この本には書かれていない。
ただ、新聞社も全く知らなかったとあるのみである。 恐らくは厳しい報道管制が敷かれていたからと想像されるが、
それでも多くの研究者も犠牲になった大事故 (この本の著者シュテュンプケも原稿を残したままこの時消息を絶ったとされている)
であるから、科学者の間ではかなり知られていたことらしい。
恐らく1956年にその核実験は行われた。 それによる大事故の情報が伝わるにつれ
科学者の間で核実験反対の運動が急速に広がることになったのであろうか。 まず、1957年4月に西ドイツ(当時)でいわゆるゲッチンゲン宣言が、
5月にはソ連と日本の科学者によりこの宣言に対する支持声明が、 5月から6月にかけてはアメリカの科学者による署名活動が、
そして7月にはカナダのパグウォッシュで世界10カ国の科学者による 原水爆禁止の声明が行われたのである。
この声明には22名の署名があるが、その筆頭にこの本の後書きを書いた ゲロルフ・シュタイナーの名が・・・
彼はこの年10月にこの本の後書きを書いたが、 当局の圧力があったのか、出版はなお3年余り後の1961年となってしまった。