題名からわかるとおり環境問題に関する本である。 「水の流れ」について、俵万智、ヘラクレイトス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、
オマル・ハイヤーム、鴨長明、種田山頭火を例に、また「水循環」について、
リグ・ヴェーダ、ウパニシャッド、仏教、鎌倉仏教、アリストテレス、 ダ・ヴィンチ、老荘、易、朱子学、貝原益軒、安藤昌益、三浦梅園、西川如見、
熊沢蕃山、田中正造、南方熊楠、北原白秋、室生犀星、荻原朔太郎を引いて、
特に東洋で顕著な自然認識の方法について紹介している。
「万物は水である」と言ったタレス以来の科学の伝統は、
究極の根本原理に基づいて全てを説明しようという考えが土台にあるが、 その現状は見事に対症療法的なものとなって様々の問題が未解決のまま拡大しつつある。
それは例えばシリコンバレーの地下水汚染、フロンによるオゾン層破壊、 チェルノブイリの放射能事故、使い捨て文明、臨海部埋め立て、
ゴルフ場の農薬汚染などである。
著者は、これらの問題を解決する鍵は、東洋的な自然認識である
「水循環思考」であるという。その一つの成果として、 石井式水循環システム(合併浄化槽)を紹介し、その優秀性について述べている。
”石井式”が各地の小自治体で注目を集めてもいるらしい。
”石井式”の「石井」は、第一工業大学教授の石井勲氏である。
石井氏の考案による合併浄化槽は処理水のBOD値が約1ppmという高性能なもので
水質的には十分飲用にできるレベルである。
ところで”石井式”といえば、もう一つ「石井式濾水器」といって
太平洋戦争中に大活躍した浄水器がある。 これは、車載用から携帯用まで各種があり、
病原菌を含む水や汚水でも飲み水に変えてしまうという高性能なものであったという。
この”石井式”の方は陸軍軍医学校教官であった石井三等軍医正の 発明になるものであるが、彼は生体実験で悪名高き
関東軍満州第731部隊(石井細菌戦部隊)を創案し、 部隊長となった石井四郎中将である。
(石井細菌戦部隊については、 森村誠一著「悪魔の飽食」(光文社カッパノベルズ 1981年)
を参照しました)
2人の”石井氏”の考案したものは実に良く似た機能と性能のものであったが、 その意図するものの考え方は実に正反対であった。