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− 今日の読書 −

松田道生
カラス、なぜ襲う−都市に棲む野生
2000年、河出書房新社
2001年1月13日

   カラスは今やどこへ行っても嫌われ者である。農村に行けば農作物を食い荒らし、都会ではゴミを撒き散らす。なるほど、カラスが農村で嫌われるのはまだ分かる。大事な農作物を盗られては収入に響くし、かといって田畑全体をカラスが入れぬように覆うわけにもいかないのだから。わからないのは都会のゴミだ。もともと盗られて困るものでもないし、散らかされるのが嫌なら、しっかり蓋の出きるゴミ容器に入れれば済むことだ。そんなこともせず、カラスが簡単に食い破ることが分かりきったポリ袋に入れておきながら、「散らかされた」「カラスの仕業だ」「不愉快だ」と言っている。人間とは実に身勝手で愚かな生き物だ。


  「東京のカラスは約2万羽」と言われている。但し、実のところははっきりしていなくて、「東京23区内に数万羽」という程度の推定しかできないのだそうだ。東京のカラスが増えているのか減っているのかのはっきりした統計もないという。
  数万羽のカラスは多いであろうか。多いという人は考えてみて欲しい。人間は同じ地域に1000万人居る。カラスが10万羽としても人間の100分の1に過ぎない。カラスが悪さをしたといっても人間が捨てた不要物を資源として再活用しているだけのことである。今までカラスが人間を殺した例を聞いたことがない。ところが、人間は全国で年間数十万羽の単位でカラスを殺しているのだ。


  昨年7月に著者の松田さんに会う機会があり、短時間だがお話することが出来た。

  カラスが嫌われるのは、カラスがある意味で人間に似ているが故ともいえる。ずる賢い、がつがつしている、ふてぶてしい――人間は自分の醜さをそこに投影してしまうのかもしれない。しかし果たして、カラスは本当に「ずる賢く、がつがつして、ふてぶてしい」のだろうか。

  私はここにカラスに関するお話を一つ紹介しよう。

室生犀星
「鴉」
新潮文庫舌を噛み切った女に所収
  きっとカラスが好きになりますよ。

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