スポーツ生理学の基礎知識


個人的に勉強しているスポーツ生理学について,面白い話題や役に立ちそうな話を紹介します。私の個人的見解が混じっていますので、詳しい内容について興味のある方は、下記参考文献を読まれることをお薦めします。





参考文献
スポーツ生理学森谷敏夫・根本 勇編,朝倉書店
パワーアップの科学―人体エンジンのパワーと効率金子公宥著,朝倉書店
生化学・生理学からみた骨格筋に対するトレーニング効果山田 茂・福永 哲夫編著,(有)ナップ
究極のトレーニング 最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり石井直方著,講談社
『より強くなるためのトレーニング、生理学』石井直方著,月刊ボディビルディング連載中
ストレングストレーニング&コンディショニング ― NSCA決定版 Thomas R.Baechle Roger W.Earle 石井 直方 長谷川 裕 岡田 純一,(有)ブックハウスHD
ストレングストレーニング&コンディショニング ― NSCA決定版 (第3版) Thomas R.Baechle (著), Roger W.Earle (著), 金久博昭 (監修), 岡田純一 (監修),(有)ブックハウスHD
ストレングストレーニング&コンディショニング[第4版] G. Gregory Haff (編集), N. Travis Triplett (編集),篠田邦彦 (監修), 岡田純一 (監修),(有)ブックハウスHD
『Sportsmedicine Quarterly 1998 No.22(筋力トレーニング特集)』(有)ブックハウスHD
レジスタンス・トレーニング―その生理学と機能解剖学からトレーニング処方まで (スポーツ医科学基礎講座 (2))石井 直方著、(有)ブックハウスHD
トレーニングジャーナル 2000年9月号〜』連載記事「無酸素性トレーニング」 荻田 太(鹿屋体育大学)


ためになる用語集(2001.2.9更新)


番号 お題目
1 ディトレーニング(トレーニングを中止すること)の生理学
2 骨格筋肥大のスポーツ生理学
3 スポーツの神経生理学
4 骨格筋の構造と働き
5 トレーニングによるパワーの発達
6 オーバートレーニング
7 筋肉つくりと固有筋力つくり
8 パワートレーニングと有酸素運動
9 トレーニングとタンパク質・アミノ酸
10 スポーツ競技における筋力トレーニングとパフォーマンス向上
11 筋肉痛の生理学
12 無酸素性トレーニング








  1. ディトレーニングの生理学


     『ディトレーニング』とは、けがなどの身体的理由,または仕事などの社会的理由によりある期間トレーニングを中止することです。

    1. 持久力ディトレーニング

      • トレーニング中止後1〜2週間で最大酸素摂取量(全身持久力の指標となる)の低下が始まる
      • 長期間トレーニングを積んだ鍛錬者の場合,3週間までは心拍出量の低下が,その後は動静脈酸素較差の低下が最大酸素摂取量低下の原因である
      • 長期間のディトレーニングでも非鍛錬者のレベルまでは持久力が低下しないこともある(遺伝的要因が大きい)
      • 筋繊維の割合については、遅筋(Tbタイプ)繊維の占める割合は変わらないが,速筋繊維ではUaタイプが増大し,Ubタイプが減少する
      • 筋断面積については、減少してトレーニング前の状態に戻る

    2. 筋力ディトレーニング

      • ディトレーニング開始後4週間目までの筋力低下は神経活動の低下が原因である(大脳興奮水準の低下,筋力発揮に参加する運動単位減少,インパルス発射頻度低下,筋繊維の非同期化)
      • 4週間目以降は筋繊維の萎縮(特に,Ubタイプが選択的に萎縮する)が原因となる
      • 長期間のディトレーニングでも非鍛錬者のレベルまでは筋力が低下しないこともある(遺伝的要因が大きい)

     仕事などの関係で予定通りトレーニングできないことは良くありますが,1ヶ月くらいであればトレーニングを中止しても筋肉はあまり落ちないことがわかります。パワーが低下したのは神経系が原因ですから、軽い重量から徐々に感じを取り戻して行けば,筋量を落とすことなく再びもとの記録に戻せそうです。

     仕事が忙しいなどの理由で、定期的にトレーニングができない時期があって扱える重量が落ちたとしても、それは神経活動の低下が理由の一時的なものであって筋肉は減っていませんから、あまり悲観する必要はなく、かえって筋肉をゆっくり休ませることができたと考えるべきでしょう。筋肉はなかなか落ちるものではない、と理解すれば、仕事とトレーニングの両立もストレスを少なくしてできるのではないでしょうか。

     ディトレーニングによる体力低下を防ぐ方法のひとつに『減少トレーニング』というものがあります。

    1. 減少持久力トレーニング

      • 実際のトレーニングは強度,時間,頻度の3条件が関係する
      • 最大酸素摂取量を維持するためには,トレーニングの時間や頻度は減らしても かまわないが、強度は一定に維持しなければならない
      • この原則は4週間以内なら鍛錬者にも当てはまる。頻度の低下は20%以内が良いとされている
      • 最近,水泳などで『テーパリング』といって,試合へ向けてのピーキングのために1〜3週間かけて組織的にトレーニングを減らす方法が採用されている。鍛錬者に強度を保って量を減らすテーパリングを1週間行わせるとパフォーマンスが向上することが報告されている。したがって、試合前には除々に練習量を落として質的に高いトレーニングを行う方がよい。

    2. 減少筋力トレーニング

      • 筋力トレーニングにおいても、強度を維持した場合,時間や頻度を減らしても最大随意筋力が維持できることが報告されている。
        週2〜3回,10〜18週間で向上した筋力が,強度はそのままで週1回のトレーニングで12週間維持できたという研究結果がある。
      • ウェイトリフターやパワーリフターも試合前にピーキングのためにテーパリングを行っており、実際パフォーマンスが向上することが報告されている。

     期間を限定した減少トレーニングは,逆にパフォーマンスの向上をもたらすというのは面白いですね。パワーリフターが一般的に行っているピーキングには,確実に効果があることがわかります。伸び悩んでいるトレーニーは,期間を限定して減少トレーニングを採用すれば壁を乗り越えられるかもしれません。




  2. 骨格筋肥大のスポーツ生理学


     骨格筋とは、まさに我々トレーニーが筋肥大させたいと望んでいる筋肉です。どのように筋肥大は起こるのでしょうか?


    1. 骨格筋肥大のしくみ

      • 運動によって個々の骨格筋細胞は肥大する
         成熟した筋細胞は増殖(細胞分裂)を起こさず,大きさが変化する

      • 運動によって骨格筋細胞は増殖する
         筋細胞の周辺にはサテライト細胞(発生過程で筋芽細胞だったもの)が存在する。 エキセントリックな運動によって筋繊維に損傷が生じ、免疫反応が起こるとき、その反応が刺激になってサテライト細胞は増殖し,筋細胞と融合して筋肥大を起こす。

      • 運動によって結合組織(筋肉と筋肉の間にある組織)が肥大する
         筋力の増加には結びつかないが、トレーニングによって結合組織も肥大することがわかっている。

       筋繊維や結合組織の肥大といった筋肥大の過程は、遺伝子レベルで調整されています。遺伝子は、細胞内のタンパク質合成をコントロールしていますが、これらの筋肥大を起こすためにはより多くのタンパク質を生産する必要があるのです。タンパク質合成のきっかけとなる『転写調整因子』というものが、遺伝子のエンハンサーという部分に結合することによって、タンパク質が合成されます。トレーニング後に、この転写調整因子がたくさん作られているということが、実験で確認されつつあるようです。

       サテライト細胞の増殖による筋肥大は、上記モデルとは異なったメカニズムによります。エキセントリックな運動によって筋繊維に損傷が生じることによって免疫反応が生じると、その反応が刺激になってサテライト細胞は増殖融合して、新しい筋繊維をつくることが最近わかってきました。また、免疫反応は結合組織の増殖を刺激するとの報告もあります。これらのことから、エキセントリックな運動は、著しく筋肉を太くする効果があると考えられています。

       骨格筋の発達には『成長因子』というものが関与しています。サテライト細胞,筋芽細胞に働く成長因子は下記のとおりです。

      1. インシュリン様成長因子(IGF-1)
      2. トランスフォーム成長因子(TGF-B)
      3. 繊維芽細胞成長因子(FGF)
      4. プロスタグランジン,など

       これまでは、インシュリン,成長ホルモン,テストステロンといったホルモン物質が筋肥大をもたらすと考えられ研究されていました。しかし、最近の研究によりこれらのホルモンがなくとも筋肥大が起こることが明らかになっています。
       成長因子は組織局所で分泌,作用するものです。これらは、成長する細胞自身から分泌され自身や周辺の細胞に作用するため,傍分泌または自己分泌機構とよばれます。

       ドーピングでステロイドホルモンが効果的である,という話は聞いたことがありますが、これは筋肥大を引き起こすものではなく、カタボリズム(筋肉を破壊する生理作用)を抑えることに効果の原因があるようです。最近のサプリメントがコルチゾールなどのカタボリックホルモンを抑える効能を宣伝するのも、こういったところからきているようですね。雑誌等で,テストステロンを分泌させるトレーニング方法,などという記事を目にすることがありますが,筋肥大を引き起こすのではなく,筋肉が肥大しやすい体内の状況を作り出すという点で、役に立つと思います。

       まだまだ、筋肥大の生理には不明な点も多いようです。はやく解明されて,究極のトレーニング方法が確立できるとよいと思います。

    2. 骨格筋肥大を促すトレーニング

       運動中の筋肉の活動様式は3種類あります。

      1. 伸長性筋活動(エキセントリック) ; 力を発揮している筋が外力により短縮方向とは反対に伸長される
      2. 等尺性筋活動(アイソメトリック) ; 筋長が変化しない
      3. 短縮性筋活動(コンセントリック) ; 筋が短縮しながら力を発揮する

      *筋力は1(最大)→2→3(最小)の順である
      *3では、運動の速度が増加すると筋力が小さくなる

       筋力に関しては、短縮性筋活動に伸長性筋活動を加えた運動が筋力の増加にもっとも有効である、という研究結果が多いようです。筋肥大に関しても、伸長性筋活動の有効性を示す報告例があります。伸長性筋活動が効果的な理由ですが、

      • 大きな負荷を扱えるためトレーニング効果が高い
      • より多くの神経的適応を引き起こす(トレーニング中断後も効果がある程度持続するそうです)
      • 筋の微細構造の破壊を引き起こし、回復過程において筋が適応して肥大する

      が考えられるようです。

       従来よりフリーウェイト(ダンベルやバーベルです)を使ったトレーニングの方が、マシンによるトレーニングより効果的であると言われているようですが、その理由の1つが伸長性筋活動のようです。筋肥大を引き起こすには、重力に逆らって重りを上げ下げする動作がシンプルですが有効です(下げる時に伸長性筋活動が発揮されます)。

       また、チーティングが筋肥大には必要である、ということも従来よりいわれてきましたが、上げる動作(短縮性筋活動)で少し反動を使い、下げる動作(伸長性筋活動)でこの重さに耐えることにより、より筋肉の破壊を引き起こし大きな超回復が期待できると考えられます。フォームがあまりにも崩れるのは怪我の原因にもなるので問題ですが、チーティングを上手に使って、できるだけ重いものを扱うことは、筋肥大には重要だと考えられます。

    3. 筋肥大が筋力アップの妨げに?!

       筋力アップを目的に筋肥大を進めてゆくと、筋繊維横断面積当たりの筋力が低下してゆくことが知られています。この理由として筋繊維の配列が変化したためであるといわれています。筋形状のイメージ図を下に示します。


      種類 主な筋肉 特徴
      紡錘状筋 上腕二頭筋、大腿二頭筋、大胸筋 ・筋繊維が筋肉の長軸方向に走っている。
      ・筋肥大すると目立つため、トレーニング効果が目に見えやすい。
      ・筋繊維が短縮した分だけストレートに腱の運動に反映されるため、素早く大きな運動に向いている。
      ・トレーニング時には、可動範囲を大きくとるようにすると効果的。
      羽状筋 上腕三頭筋、大腿四頭筋 ・筋繊維が羽の片側のように腱に配列されている。
      ・筋肥大しても目立たず、見かけ上細い筋肉でも大きな力を出すことが起こりうる。
      ・腱にたくさんの筋繊維を配置できるため大きな力を発揮できる。
      ・筋繊維が短縮した分より、腱の運動距離は小さくなるため、スピードや可動範囲は紡錘状筋にはおよばない。
      ・トレーニング時には、可動範囲よりもできるだけ高重量を扱うことに重点をおいた方が効果的。


       筋肉は腱につながっており、腱を通して骨格に力を伝えます。腱の長さに限りがあることから、『羽状角』を大きくすることによって、限られて長さの中に太くなった筋繊維を詰め込むことになります。この羽状角があまりに大きくなると、腱に真っ直ぐ伝わる力が小さくなってしまうのです。

       一般に羽状角は5〜25度であり、筋力のロスは0.99〜0.91程度とあまり大きくありません。しかし、エリートボディビルダーの場合では50度を超えることがあり、筋力のロスは0.57と無視できなくなります。

       とりあえず筋肥大を続けてゆくことが筋力アップに必要ですが、上級者ほど記録が伸びずらくなるのには、こんなところに原因があったのかもしれませんね。なかなか、難しいものです。




  3. スポーツの神経生理学


     筋肉は生理学的特性から3種類に分類され、それぞれ別々の運動神経細胞(α運動ニューロン)に支配されています。

    項目 (a) (b) (c)
    運動単位の種類 FF (Fast Fatiguable) FR (Fast fatigue-Resistant) S (Slow fatigue-resistant)
    筋繊維の種類 FG (Fast twitch,Glycolytic) (typeUb) FOG (Fast twitch,Oxidative,Glycolytic) (typeUa) SO (Slow twitch,Oxidative) (typeT)
    速筋(FT,白筋) 遅筋(ST,赤筋)
    エネルギー代謝 解糖 解糖+酸化 酸化
    収縮力 強い やや強い 弱い
    持久力 なし ややある ある
    動員順序 B A @
    神経繊維の太さ 太い 中程度 細い

     筋肥大の主な原因となる筋繊維FG(TYPEUb)は動員順序が3番目であり、強度の高いトレーニングを行わなければ刺激できないことが分かります。これが、筋肥大に質の高いトレーニングが必要な原因です。また、筋繊維FGは持久力が全くありませんから質の高いトレーニングは少ないセット数しか実施できません。また、この動員順序は『サイズの原理』と呼ばれており,神経繊維の細い筋肉ほど神経衝撃(インパルス)に対する感度が良いことを表しています。例えば長距離走では持久力に富んだSO繊維が早々と活動し始め,中距離走では両性質を兼ね備えたFOG繊維が活動に加わります。さらに全力疾走でやっとFG繊維に火がつくのです。

     ただし、エキセントリックな動作(筋肉が伸展しながら力を出す動作)では、サイズの原理が成り立たず、筋力発揮が小さいときでも速筋繊維から優先的に使われるようです(月刊ボディビル1999年1月号より)。そのため、エキセントリックな動作は、筋力増大に効果が高いそうです。

     トレーニングに関する神経系に寄与に関して100日間アイソメトリックトレーニングを行った例があります。92%の筋力増加に対して筋横断面積は23%しか増えなかったとのことです。また、トレーニング初期には筋横断面積はほとんど増加しませんでした。この結果から、トレーニング初期の筋力増加は神経的要因(運動単位の放電量増大)が関与していること,その後筋肥大が引き起こされることがわかります。

     初心者が大きく記録を伸ばせるのは神経的要因が大きいと考えられます。したがって、初心者はセット数の多いトレーニングが良いと言われているのは正しいと考えられます。また、その後伸び悩む時期がきますが,ここからは筋肥大が重要となりますので超回復に重点をおき,少しセット数を減らしたり,ピリオダイゼーション(トレーニングを周期化すること、サイクルトレーニングなど)を取り入れることが重要となると思われます。

     こうして考えると,従来経験的に言われてきたことが科学的にも正しいんだと納得できますよね。とても面白いと思いました。

     また、筋繊維の割合には個人差がありますが、遺伝的な要因が大きく、トレーニングではほとんど変化しないようです。生まれつき速筋の割合が多い人は筋肉の発達も早く、パワー系のスポーツに向いていることになります。しかし、たとえ多少遺伝的に不利であっても、好きなスポーツは続けたいですよね。そんなこだわりが、いわゆる『男のロマン』と言われるものではないかと思っています。結果よりも記録を伸ばしてゆくプロセスを楽しむ、それがアマチュアスポーツの醍醐味ではないでしょうか?




  4. 骨格筋の構造と働き


     骨格筋の構造を付図に示します。

    筋肉 ⇒筋周膜(筋肉を包む膜)
    筋繊維 ⇒筋鞘(筋繊維を包む膜)
    筋形質(エネルギー工場,ミトコンドリアを含む)
    筋原繊維(収縮を起こす) ⇒アクチンフィラメント
    ミオシンフィラメント

    アクチンフィラメント :直径60〜80オングストローム,長さ約1.1μm
    ミオシンフィラメント :直径100〜150オングストローム,長さ約1.5〜1.6μm
    Z膜         :アクチンフィラメントがくっついている隔壁
    筋節(サルコメア)  :Z膜から隣のZ膜までの1区画

     筋繊維の長さが異なるのは直列に並んだ筋節の数に違いがあるためです。


     筋収縮のメカニズムは下記の通りです。

    筋収縮のきっかけ :神経衝撃(インパルス,電気的刺激と同じもの)
    伝達経路     :脳 ⇒(脊髄)⇒(運動神経)⇒ 筋肉
    筋肉の反応    :筋原繊維周辺にある袋(筋小胞体)に入っているカルシウムイオンを放出し、これがきっかけでエネルギー反応(ATP分解)が起こり,筋肉が収縮する
    筋収縮のメカニズム:アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間に滑り込むために起こる


     人体のエネルギー源はATP(アデノシン三燐酸)であり、その分解によって生じるエネルギーが筋収縮をもたらします。ATPの供給システムは下記の通りです。

    @激しい運動(短距離走など) ・CP(クレアチン燐酸)の分解による(乳酸が発生しない)
    ・エネルギー供給速度 13kcal/kg/秒(成人男子)
    ・無酸素的過程
    ・持続時間8秒程度
    A中程度の運動(中距離走など) ・グリコーゲンの無酸素的解糖による(乳酸が発生する)
    ・エネルギー供給速度 7kcal/kg/秒(成人男子)
    ・無酸素的過程
    ・持続時間30秒程度,乳酸を生じる
    B軽度の運動(長距離走など) ・グリコーゲン、脂肪の酸化による
    ・エネルギー供給速度 3.6kcal/kg/秒(成人男子)
    ・有酸素的過程
    ・枯渇することは通常の運動ではない
    ・無酸素的エネルギー供給時間は@+Aで40秒程度が理論的限界である。
    ・運動が終了すると有酸素的過程によりATPとCPの回復,乳酸の除去が行われる。

     ウェイトトレーニングは激しい運動に分類されると思いますが,この間ATPの量はほとんど変化しません。クレアチンの量が大幅に減少し,ATPを生成するために働くようです。最近,クレアチンサプリメントが流行しているのも、ウェイトトレーニングにおいてエネルギーを十分供給しようということのようですね。もし、サプリメントの経口摂取によって筋肉中のクレアチンが増やせるなら,効果があるのかな?と思います。

     人体は本当に精巧かつ合理的作られてますよね。ちなみに人体をエンジンに例えると 効率25%とのことです。自動車などに比べれば効率が良いよう思います。高性能なエンジンといえるのではないでしょうか。このエンジンを十分動かせるよう、たくさんのインパルスを出せるように集中力を高めてトレーニングしてゆきたいと思います。




  5. トレーニングによるパワーの発達


     パワーリフターが追い求めるのは筋力ですが,他のスポーツ選手がウェイトトレーニングで強化したいと考えるのはパワー(筋力×スピード)です。したがって、様々なスポーツの補助種目としてウェイトトレーニングを採用する場合には,私がこのホームページで紹介しているようなトレーニング方法の他に工夫が必要となります。ここでは、パワーの発達とウェイトトレーニングについてまとめてみました。

    1. 筋力トレーニングによるスピード低下の迷信

       俗説として良く言われるのが,『筋肉をたくさんつけるとスピードが落ちる』というものです。この説は1922年にイギリスのノーベル賞生理学者ヒルが発表した『粘性理論』にもとづくものです。『粘性理論』とは、筋収縮スピードがある一定以上にならないのは筋肉に粘性があるからだ、としたものです。しかし、この説は弟子のフェンが,『筋肉が活動するときの粘性抵抗は無視しうる程小さい』ことを証明し,ヒル自身もそれを認めて粘性理論を撤回しています。その後の実験でも、筋肉をつけてもスピードが低下しないことは証明されています。したがって、スピードが落ちることを心配して,ウェイトトレーニングを避ける必要は全くありません。

    2. オーバーロードと特異性

       筋力トレーニングによるスピード低下が引き起こされることが起こりうるのは,『全身運動のスピード』です。全身運動では,全身の多数筋群の協調的な働きが必要になるからです。筋力トレーニングと全身運動のスピードを考えるには,オーバーロードの原則と,特異性の原則を理解する必要があります。

      • オーバーロードの原則
         トレーニングの負荷は通常用いているものより強くなくてはならない。

      • 特異性の原則
         ある種の運動能力を高めるには,それと同類の運動でトレーニングすると良い。

       筋力アップをはかるため,オーバーロードの原則に従って負荷を強くしてトレーニングを行うと,実際の競技においては体重程度の負荷しか使わないことから,実際の競技と異なるトレーニングをすることになり、特異性の原則から離れて行くことになります。したがって、筋力トレーニングのみ頑張っても,競技における能力は向上できないのです。

       これまでの研究により,

        @ 筋力トレーニングのみ
        A 競技トレーニングのみ
        B 筋力トレーニング+競技トレーニング

      で比較すると,Bが最も成績を向上できることがわかっています。

       したがって、筋力トレーニングによって身体のエンジンを強化するとともに、このエンジンを使いこなせるような全身トレーニングを併用することが、競技成績向上に有効なのです。

    3. パワーアップに最適な負荷

       筋力を大きく増やすことによって、前にパワーが出なかった荷重のところで大きなパワーが出せるようになります。筋力は自動車でいうとエンジンであり、まずこの排気量を増やすこと、すなわち筋力アップすることが重要です。筋力アップするためのトレーニング方法は、このホームページで解説してあるとおりです。ここで、考慮すべき点は体重と筋力の関係です。せっかく筋力がついても体重が増えてしまうと、体を動かす加速度は同じになってしまいます(加速度=力/質量)。

       体重の増加は、持久力の増加も同時に必要とします。競技の特性によって、筋力アップを重視すべきかどうかを考える必要があります。





  6. オーバートレーニング


    1. 疲労とは?

       筋疲労は、中枢性疲労末梢性疲労に分類されるようです。

      中枢性疲労 神経駆動の減弱、運動意識実行力の減弱による。
      末梢性疲労 筋張力発生の減弱(筋内のエネルギー減少、老廃物蓄積など)による。

       中枢性疲労は、極度に疲労困憊したときに影響が大きいようです。質の高いトレーニングは、筋力を限界まで発揮しますから、中枢性疲労も無視できないものと考えられます。精神的な疲れは、まさに中枢性疲労に直結しますから、トレーニングする部位が異なるとしても、質の高いトレーニングを連日実施することは避けた方が良いように思います。



    2. オーバートレーニング

       『オーバートレーニング』というのは、過剰なトレーニング負荷によって身体機能や競技成績が低下して、容易に回復しなくなる状態を表します。類似した単語をまとめると、以下のようになります。

      1. オーバーリーチング
         短期間のオーバートレーニング状態のこと。2〜3日で回復する程度。超回復を引き起こすために、しばしばトレーニングプログラムの中で計画的に使われている。
      2. オーバーユース
         使い過ぎ;怪我の原因となるような関節等の疲労のこと

       トレーニング負荷と回復が正常であれば、超回復が起こり身体機能は向上してゆきます(『筋力向上の最重要項目・超回復について』参照)。トレーニング負荷をどんどん増やしてゆくと、トレーニング当初はこれに応じて記録が伸びてゆきますが、強いトレーニングを継続すると身体が適応できなくなり、回復が遅れて身体機能が逆に低下してしまいます。一時的にトレーニング負荷を軽減し、十分回復させるたのち、再度強度を上げてゆくと身体機能は向上しますが、強度の高いトレーニングを継続してしまうことによって、慢性的な疲労状態であるオーバートレーニングに陥ってしまうのです。


       オーバートレーニングの症状は、交感神経性オーバートレーニング副交感神経性オーバートレーニングに分類されるようです。これらの名称は、各症状がそれぞれの神経が興奮したときの症状に類似することによります。主な特徴は、下記の通りです。

      項目 交感神経性 副交感神経性
      競技 質の高いトレーニング、パワー系種目 量の多いトレーニング、持久系種目
      疲労 少し疲労しやすい 異常に疲労しやすい
      興奮 興奮性 抑制的
      睡眠 不眠性
      食欲 減退
      体重 減少
      体温 わずかに上昇
      循環器系 安静時心拍数増加、動悸、心臓の圧迫・さしこみ
      血圧 負荷時または負荷後に心臓拡張期血圧上昇(100mmHg以上)
      回復 比較的早い 時間がかかる(長い場合は数ヶ月)


       オーバートレーニングの程度は、以下のように分類されるようです。

      軽症 日常生活には支障無し。強度の高いトレーニング時にきつくなる。競技成績はあまり低下しない。
      中等症 日常生活でも疲れを感じる。軽度のトレーニングでもきつくなる。競技成績は明らかに低下してゆく。
      重症 日常生活での症状がひどくなり(睡眠障害をともなうこともある)、ほとんどトレーニングできなくなる。

       オーバートレーニングを予防するために、以下の対策が考えられるようです。

      1. 適切な負荷は個人で異なる。トレーニング計画は個別化すること。
      2. トレーニング負荷は強弱をつけて周期化し(ピリオダイゼーションなど)、常に回復を図ることにより身体をトレーニングに適応させること。
      3. トレーニング内容と競技成績、コンディションを記録・検討することにより、負荷を適切にコントロールすること。




  7. 筋肉つくり(筋肥大)と固有筋力つくり(筋力増大)


     最大筋力を増加させるメカニズムには2つの方法があります。

    1. 筋肉つくり(筋肥大)
      筋繊維の肥大を引き起こすことに重点を置いたトレーニング
    2. 固有筋力つくり(筋力増大)
      神経系を改善し、筋の発揮張力を100%近くまで高めるトレーニング

     トレーニング効果と適切なトレーニング負荷の関係は、一般的には下記のように考えられています。

    最大筋力(1RM)に対する割合 最高反復回数 期待できる効果
    100 1 集中力(神経系)
    90 3〜4
    80 8〜10 筋肥大、筋力
    70 12〜15
    60 15〜20 筋持久力(最大敏速に行えばパワートレーニング)
    50 20〜30


     筋肉づくりには量的トレーニング(中強度で長時間行うトレーニング)、固有筋力つくりには質的トレーニング(最大強度で短時間のトレーニング)が良いと言われています。これに関する実験結果がありました。

    1. L群
      • 膝伸展筋
      • 最大筋力の50%でのトレーニング
      • 等尺性収縮を30秒間、これを1日20セット実施
      • 筋断面積増加 8%
      • 固有筋力増加 15%
    2. H群
      • 膝伸展筋
      • 最大筋力の100%でのトレーニング
      • 等尺性収縮を10秒間、これを1日10セット実施
      • 筋断面積増加 3%
      • 固有筋力増加 27%

     以上の結果より、L群(量的トレーニング)では筋量の増加が著しいこと、H群(質的トレーニング)では筋力の増加が著しいことがわかります。

     また、トレーニング間のインターバルも、筋肥大と筋力増大を目指す場合で異なるようです。それぞれ下記のようなトレーニングが適していると言われています。


     筋力増大のトレーニングで筋肥大は起こりますし、筋肥大のトレーニングで筋力も増大します。2つのトレーニングを比較してのお話です。筋力増大トレーニングには、もっとも高重量が扱える複合関節種目が適しているように思います。また、筋肥大トレーニングには、回復期間を短くして練習頻度を多く確保するために、高重量が扱えない単関節種目の方が、適しているように思います。

     2つのトレーニング方法は、相反するものではなく、お互いに補完しあうものであり、うまく組み合わせて実施することで、大きな効果があげられそうです。メインセットを筋力増大トレーニング、そのあとの補助トレーニングを筋肥大トレーニングにする、またはピリオダイゼーションを採用する、などが考えられると思います。




  8. パワートレーニングと有酸素運動


     ミトコンドリアは細胞内に存在する器官で、酸化的リン酸化と呼ばれる過程によってATP生産工場と呼ばれるほど多量のATPを生産することができます。筋肉の最大呼吸能力はミトコンドリア容量と直線的な関係にあり、ミトコンドリアが多い筋肉ほど有酸素能力にすぐれていることがわかっています。

     ミトコンドリア容量を直接測るには電子顕微鏡が必要ですが、ミトコンドリア系酵素の活性とミトコンドリア容量は相関関係があり、ミトコンドリア系酵素活性を測定することによって推測することが可能です。




     酸化能力と解糖能力に関して、面白い実験結果があります。

     ウサギの前脛骨筋に低頻度で慢性的な電気刺激を与えた実験があります。ミトコンドリア系(ミトコンドリアには酸化機能があります)の酵素活性は2週間後には高値を示すのに対して、解糖系の酵素活性は対照より低値となり、10週間後には約25%にまで低下してしまったそうです。

     この結果より、有酸素運動を行った場合、瞬発力に対する筋肉の能力が低下してしまうことを示しており、パワーを強めるためには、有酸素運動をあまり実施しないほうが良いことがわかります。




  9. トレーニングとタンパク質・アミノ酸


    1. 運動による筋タンパク質分解

      • 激しい運動によって筋肉は損傷を受けます。特に伸長性筋活動で損傷が大きいことがわかっています。
      • 筋肉は損傷を受けると、分解されたタンパク質からアミノ酸、さらにアミノ酸からアンモニアが生成されます。アンモニアの蓄積は、脳・筋肉へ作用して疲労を促進すると考えられています。
      • アンモニアは肝臓で尿素へ変換され、腎臓を通して尿として排泄されます。血中尿素濃度からタンパク質分解の状態を推測でき、以下のことがわかっています。

        • 運動時間が長くなるほどタンパク質分解量が多くなる。
        • 1時間以内の運動であれば、タンパク質の分解はかなり少ない。

      • 運動中のタンパク質の分解は、炭水化物を十分に摂取したかどうかに影響されます。

        • 炭水化物を十分に摂取した場合;
           筋タンパク質の分解はかなり抑制される
        • 炭水化物に摂取が不十分な場合;
           筋タンパク質の分解は促進される(糖新生(タンパク質から糖分を作る反応)の材料となると考えられている)

       タンパク質の分解とは、ずなわち筋肉が分解されること(カタボリズム)であり、できる限り少なく抑え込む必要があります。したがって、トレーニング時間は1時間以内を1つの目安にするべきと考えられます。

       筋肉の分解を防ぐためには、トレーニング前に十分な炭水化物を摂取すべきです。減量中の筋量を維持することが難しい理由の1つが、炭水化物の摂取量が少ないことなのかもしれませんね。

    2. 運動によるアミノ酸の分解

      • 人の筋肉では主に分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)が酸化されます。
      • 分岐鎖アミノ酸は食物タンパク質に含まれる必須アミノ酸の約50%占め、筋タンパク質中でも約35%の割合で含まれます。
      • 運動により、筋肉中の分岐鎖アミノ酸濃度が上昇し、その酸化が促進されることがわかっています。
      • 運動前に分岐鎖アミノ酸を投与すると、筋肉でのタンパク質分解が抑制されることを報告した研究があります。

        • 被験者は健康な成人男性(18〜35歳)
        • 運動の45分前、20分前に分岐鎖アミノ酸を経口投与、対照にはプラセボを同様に投与
        • 投与量;38.5mg/kg体重×2回(合計77mg/kg体重)
        • 運動量;片脚でエルゴメータ(最大強度の70〜75%)を1時間こぐ
        • 結果;筋肉から遊離する必須アミノ酸量が減少した。投与した分岐鎖アミノ酸が筋肉中で分解し、筋タンパク質の分解が抑制されたと考えられる。

       摂取した炭水化物が不足すると、筋肉が分解されてしまいますが、これを防ぐ手段として分岐鎖アミノ酸(BCAA)の摂取が有効であることがわかります。減量中など、十分な炭水化物が摂取できないときには、BCAAの利用が有効と考えられます。

    3. 運動とタンパク質合成

      • 運動中はタンパク質の合成が低下します。
      • 運動後は逆にタンパク質の合成が亢進し、少なくとも24時間はその状態が保たれることが確認されています。 (研究対象はランニング、水泳、バレー(ダンス)であり、ウェイトトレーニングではないようです。ウェイトトレーニングの方が強度が高いことを考えると、より長時間亢進された状態が保たれると推測されます。)
      • 分岐鎖アミノ酸の生理作用として以下のことが証明されています。したがって、運動後の筋タンパク質合成が亢進する期間に、十分な分岐鎖アミノ酸を摂取することが重要と考えらています。

        • ロイシンは筋タンパク質の分解を抑制する。
        • ロイシンは筋タンパク質の合成を促進する。
        • 膵臓からのインスリン分泌を促進する。
        • インスリンによる筋タンパク質合成作用を増大する。

       分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、筋肉の分解を防ぐだけでなく、筋肥大にも有効であることがわかります。BCAAを含むタンパク質(肉、魚、豆などに広く含まれていますが、ホエイプロテインが最も含有率が高いようです)を十分に摂取した方が良いようです。

    4. アスリートに必要なタンパク質摂取量

      • 一般人のタンパク質所要量は1.08g/kg体重です。
      • アスリートのタンパク質所要量は1.8〜2.0g/kg体重であるという報告があります。運動によってアミノ酸分解が亢進すること、運動後にタンパク質合成が亢進することが、一般人よりも多くのタンパク質を必要とする原因です。

       タンパク質の摂取量は多い方が望ましいようですが、カルシウムの必要量も増すことに注意する必要があります。プロテインを摂取する場合、カルシウムを多く含むものが良いと思われます。また、カリウムの必要量も増すので、野菜や果物も一般の人よりも多く摂取すべきと考えられます。



     これまで雑誌などで学んできた情報と同じ内容ですが、それらが根拠のあることが確認できました。食事を十分に摂取し、炭水化物が十分な状態では、あまり気にする必要がないのでしょうが、減量中などには、BCAAのサプリメントを摂取することが効果がありそうですね。




  10. スポーツ競技における筋力トレーニングとパフォーマンス向上


    1. スポーツ競技における筋力トレーニングの歴史

      年代 筋力トレーニングへの取り組み方
      1960年代
      • ウェイトトレーニングで挙上重量を増やせば増やすほど、スポーツパフォーマンスが向上すると考えられていた。
      • 実践が先行しており、理論は後から説明を加える部分が多かった。
      • 理論的専門家が現れ始めた。
      1970年代
      • ウェイトトレーニングによるパフォーマンスの向上が頭打ちになる。
      • 専門的運動の中で、技術と体力を分けずに体系化し、専門的運動を遂行する能力を高めるということが考えられた。
      • ロシアにおいて、その種目に固有の専門特化された筋力として『特殊筋力』というものが研究される。これを強化するために『プライオメトリックトレーニング(東欧ではショックメソッドと言う)』が考え出され、1975年頃に陸上界から急速に広まってゆく。
      • プライオメトリックトレーニングは筋肉を太くするものではなく、試合動作を分解し、試合動作に近い形態でトレーニングするものである。神経系における筋力発揮のタイミングを強化する。
      • プロ・コーチが誕生し、定着した。どんな動作を取り出して強化するかということが重要であり、それを見抜くコーチの能力が重要となる。
      1980年代〜
      • 筋力トレーニングは、一般的運動(専門的技術や体力を身につける前提条件)として行われるようになる。ミニマム・リクワイアメントとなる挙上重量を経験的に把握しておき、体調管理の1つの指標として用いられる。
      • 本格的にプライオメトリックトレーニングを実施するためには、フルスクワット(太ももが床と平行になるまでしゃがむスクワット)で体重の2倍が一般的な目安になると言われている。かなりのトレーニングを要するが努力次第で達成可能なレベルである。

    2. 筋力トレーニングとスポーツパフォーマンスの向上

      • 筋力トレーニングとパフォーマンス向上はイコールではない。筋力トレーニングは、車でいうとエンジンを大きくするだけであり、それを乗りこなす練習が必要である。筋力トレーニングとパフォーマンス向上の間をつなぐトレーニングが必要である。
      • スクワットやベンチプレスにおける挙上重量とパフォーマンスの向上に相関はない。スポーツのパフォーマンスを理解し、現在の体力レベル、その選手の形態や動きの特徴を把握した上でのウェイトトレーニングでなければならない。
      • ウェイトトレーニングを取り入れると、ついついスクワットなどでどのくらい挙上できたかを競いたくなるものだが、パワーが必要な場合には、軽めの重量でスピードを早くした動作でのトレーニングが必要である。やみくもなトレーニングではなく、実際の競技動作でどの筋肉をどのように使うのかイメージしてトレーニングを考えなければならない。




  11. 筋肉痛の生理学


    1. 筋肉痛の種類

      種類 内容
      運動中に生じる筋肉痛、筋痙攣 筋収縮に伴い血流減少が生じ、筋肉が虚血状態となり、筋から遊離するカリウムイオンなどが痛みの受容器を刺激することによって起こる。
      遅発性筋肉痛 運動後数時間〜数日経ってから生じる筋肉痛。エキセントリックな筋活動によって筋や結合組織の損傷が引き起こす炎症によって起こる。

    2. 筋力と筋肉痛の関係

      • 痛み刺激の受容器は、直接筋細胞とは接合していない。したがって、遅発性筋肉痛はエキセントリックな運動によって筋の損傷と同時に、筋内膜・筋外膜といったコラーゲンからなる結合組織が損傷することによって、痛みが生じるものと考えられる。
      • トレーニング後の筋損傷・筋力低下の程度と、遅発性筋肉痛の痛みの程度の間には相関性が認められない。したがって、筋肉痛を目安にトレーニングの効果を判断することは、間違いである可能性が強い。
      • 遅発性筋肉痛はコンセントリックな運動では発生せず、エキセントリックな運動によってのみ生じる。
      • 筋の長さが最大限に引き伸ばされた局面でエキセントリックな負荷が加わった場合に、筋肉痛が生じ易く、筋力低下・筋の腫れも顕著になる。

    3. 筋肉痛の予防

      • あらかじめ軽い強度でエキセントリックな負荷をかけておくことで、筋肉痛の発生を防ぐことができる。ちょっとでも慣らしておくことが大事である。
      • 全力で2回だけエキセントリックな運動を行った場合には軽い筋肉痛が生じるが、2週間後に24回全力でエキセントリックな運動を行っても筋肉痛がほとんと発生しなかった、という実験結果がある。
      • 筋肉痛が起きるトレーニングが良いトレーニングであるという認識は間違いである。筋肉を損傷させなくても筋肥大は可能であり、本当に筋を壊死させてしまうと回復に非常に長い時間がかかってしまう。うまく回復できるような強度・負荷のトレーニングを行った方が効果的と言える。
      • 筋の長さが短い状態で、パーシャルレンジのトレーニングを行うことによっても、筋肉痛の発生を防ぐことができる。


     筋肉を引き伸ばした状態で筋肉痛が生じ易いというのは、従来から言われてきたフルレンジでトレーニングした方が筋肥大に良い、という話が生まれた理由なのかもしれませんね。




  12. 無酸素性トレーニング









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