カギュ派


 カギュ派はキュンポ(九九〇〜一一三九)とマルパ(一〇一二〜一〇九七)という、二人の在家行者から生まれた。そのうちのマルパは、訳経師ダンミ(九九三〜一〇五〇)からサンスクリット語を習い、インドへは三回、ネパールへは四回密教を学びに行っている。インドでは百八人の師についたが、その中で傑出していたのはナローパである。マルパに伝えられた秘法は、「ナーローの六法(六成就法)」の名で知られている。それらは「内火」「幻身」「夢見」「光明」「転識」「中有」(「トンジュク(入屍)」はマルパ一代で滅んだとされる)からなる。これらはヨーガの技法によって、体内にあるチャクラを活性化し、そのエネルギーを頭頂の梵穴から抜けるようにすること。それと同時に死後の「中有」を疑似体験し、煩悩を滅することで悟りを得、さらには肉体の桎梏を逃れた後に、衆生を救済するための微細な身体を得ることを目指している。なお、「トンジュク」に関しては、死者に霊魂を吹き込む技法とされているが、詳しいことは伝わっていない。チベットにこうした秘法をもたらしたマルパは、それを詩人としても有名なミラレパ(一〇四〇〜一一二三)に伝えた。
 「ナーローの六法」とともにカギュ派を特徴づけるものとして「大印契(マハームードラー)」がある。それは言葉の媒介に頼ることなく、心の本質を直接的に悟る技法で、ヨーガによって「母光明」と呼ばれる真理を、行者が「子光明」として把握することを目指している。
 さらにカギュ派は、チベット仏教の特徴とされる「転生活仏」の制度を創始した。これは後にダライラマを頂点にいただくゲルク派に採り入れられた。なお中国本土では、カギュ派の僧侶が白衣を身に着けることから、この派を「白教」と呼んでいる。

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