・第2日め(3/14)の夜 その4・


「うれしいっ!」彼女が腕を回してきた。うわぁ。もーカクゴは決めたぞ。「あ、ちょっと待ってて」。彼女が向こうにいた友達の方に行き、なにやら話をして戻ってきた。「OK、行きましょ」「なに?なんかあったの?いいの?」「うん、大丈夫、気にしないで」。なんか気になるなー。ま、いーか。ここで安全策をとることにした。「ねぇ、オイラのホテルに来ない?」「え、どこ?」「歩いてすぐ。Banthaiだけど」「うん、わかった。いいわよ、いきましょ」。よし、これで少なくともやべぇトコじゃない。オイラのペースでなんとかなる。ディスコを出る前にカウンタでもう一杯飲み、景気をつけてから店を出る。2人でホテルに向かい歩き始めたら、彼女は腕をからめてきた。なんかカナリイイ気分だぞ。ちょっと感覚がマヒしてきたのがわかる。イケナイことなのに、そーゆー気分が薄れてきている。普通にナンパして、友達になって歩いているよーな気分になってきていたのだ。途中の屋台で「オナカすいちゃった、あれ食べない?」と勧められるままツクネのよーな焼き鳥のよーな串モノを食べる。ちょっとキテいる匂いがしたが、気にせず食べてみる。(翌日、実はやっぱりキていたことがわかったのだが)2人で食べながら歩いていると、ほどなくしてホテルに到着した。

このホテルはビーチ沿いのメインストリートから10mほど入った所にフロントがある。ストリートの入り口にはゲートがあり、そこに24hで警備員がいる。おかげで安心なのだが、この時はそれがアダになった。いつものごとくゲートをくぐりフロントに行こうとしたら、警備員がゲートを開けてくれない。「なんで?」見ると警備員がこっちへ来い、みたいな事を言っている。「300バーツだ」と言ってきた。なにぃぃー。オイラが女の子を連れてきたのを見て感づいたな。おめぇ、こづかい稼ぎだろー。「何を言っているのか分からない。この娘とはそこで友達になって、オレが部屋に招待したんだ。何故あんたに300バーツ払わなければならない?」急にアッタマきてまくしたてたら、「OK、フロントに言ってくれ」と、ゲートのわきから直接フロントに通された。で、フロントでカギをもらおうとしたらフロントマンも「300バーツです」と、同じこと言いやがる。なんでだ!

後から考えると、これはタイのホテルのルールだったと思う。オイラはあくまで1人で部屋を借りているワケで、誰であろーともう一人連れ込めば、その分チャージをとる、というルールだったのではないかな、と。しかしそん時はそこまで考えがまわらなかった。酔っていたし、こっちが後ろめたいコトをしているせいで彼らの態度がとても冷たく思えたから。ともかく、その時はフロントまで同じ事を言うのでグルなんじゃねーか、まで思ってしまい、しばらく口論していたら、横にいた彼女が「もういいよ、やめようよ。ね、私のアパートに来て。大丈夫だから」と言ってきた。「でもさ、何故友達を招待しただけで・・」「仕方無いわよ。ね、私のアパートにしようよ」。なんかこれ以上ここでガタガタしていてもしょーがないので、仕方なく彼女の提案に従うことにした。なんか煮え切らない気持ちだったけれど。

フロントを出て通りに出て、彼女がソンテウ(軽トラックの荷台にシートを着けたよーなもん)と交渉し彼女のアパートに行くことにした。ここから5分ほどらしい。2人で乗り込むと意外と快適だった。考えたらこーゆー現地の交通機関は初めてだなー。うん。これもいいぞ。ちょっと機嫌をとりもどし彼女とちょっとお話。「ごめんな。でも300バーツが惜しいわけじゃないんだよ。どーしても納得できないんだよな。それにあいつらの態度が気に食わなくてさ」「うん、もういいよ。気持ちはわかったから」。なんかマジでただの友達の気分になってきた。そーゆーコトのために一緒にいるという気分が失せてきていた。

5分ほどで彼女のアパートに到着。通りからちょっと入ったところだったので、ソンテウを降りて1、2分歩いたところにソレはあった。「あそこよ」。アパート自体は、日本で大学生が借りているよーな小ギレイな感じだった。でもその周りがすごかった。ハッキリ言って生活が厳しそうな家、アバラ屋に近いような家ばかり。環境的には決して裕福な人達が住んでいる地域とは思えない。ちょっと気が滅入ってきた。オレなにしてんだろ。ホントこんなとこ来てナニしようとしているんだろ。1000バーツって、オイラにしてみりゃ3000円だけど、彼女にしてみればたいへんな金額なはずなんだよな。日本人の感覚で全てを考えるからいけないんだって、そーゆーことはオイラが最もキライなことだったんじゃねーかって、ここまで来ておきながら気分が落ち込んできてしまった。

なんでこんなところに来てしまったんだ。後悔の念が怒涛のごとくわいてきた。だめだ。やっぱオレにはできねぇ。ヤル気どころか、すぐにでもここを立ち去りたい気分になってきた。「ごめん、ここまで来ておいてなんだけど、やっぱ帰るよ。ホント悪りぃ」「えぇー、どうして?」「いや、よく考えたらもうお金がないんだ」。ウソを言うしか思い付かなかった。「ナニよォーそれ。ちょっと待ってよ」「いや、ホント申し訳ない。ナニもしないでこのまま帰るから、これでかんべんしてくれないか」。オイラは彼女に言い値の半分の500バーツを渡したのだった。それを見て彼女はびっくりし、その後とてもすまなそうな顔をした。「ホントにいいの?」「うん。このまま帰るよ。これはお詫びと思って」「でもそれじゃ悪いわよ。せっかく来たんだから、ちょっとだけ部屋に寄っていかない?飲み物くらい出すわ」。やっぱいい娘じゃねーか。改めて反省し、やっぱりやめることにしてよかったな、と思った。オイラはここでビジネス的関係は終わったと思った。「いいの?じゃ、せっかくだからちょっとだけね」。ここからは、たまたま仲良くなったただの友達のつもりで、言葉に甘えてとりあえず部屋に行くことにした。彼女はオイラの手を取って2階へ案内してくれた。「ここよ」。その時オイラは見てしまった。玄関のわきにズラっとならぶ、いろんなサイズの靴を。これはいったい?

部屋に入ると、一人の女の子がいた。15、6位の子。オイラ=お客が来たことを知り、部屋から出て行こうとしていた。部屋自体はけっこう広くて、クイーンサイズのベッドが1つ、ちょっとしたテーブルと冷蔵庫、ドレッサー、奥にキッチン、トイレ&バスルームらしきものがある。でも何故か生活臭が感じられない。ベッドもホテルみたいにベッド・メイキングされている。ここに住んでいるってニオイがまるでないのだ。「この子は友達だから気にしないでいいわよ」。彼女は事務的に言う。まるで部下に言うように。・・・・ここでオイラは気が付いてしまった。この部屋は「共同で借りているプレイルーム」じゃないのか?! 表にあったたくさんの靴の持ち主達、ディスコで話していた友達、ここで部屋の番をしていた女の子、みんなでここを共有しているのだ。体を売って生活するしかない女の子達が、お金を出し合って借りている部屋だったのだ。「はい、どうぞ」彼女は冷蔵庫からコーラを出してくれた。それを飲みながらホントにやめてよかったと思った。現地のことをなにも知ろうとせず、どこへ行っても日本の感覚そのまんま、金にモノをいわせる日本人。もう少しでオイラが最も軽蔑する、そんな「日本人」になるところだった。ま、一旦はそうだったんだから今更えらそーに言えないんだけどさ。

でも、ここで悲しいことが起きた。彼女が横にきて、こう言ったのだ。「ねえ、ホントにお金がないの?実はあるんじゃない?ここまで来てホントにしないの?」。ショックだった。彼女がオイラを部屋に招きいれたのは、親切もあったが、気が変わるのを期待していたからなのだ。オイラが本当にお詫びのつもりで、それでもけっこう無理して渡した500バーツ、その気持ちは彼女に伝わっていなかった。なんの意味も無かったのだ。すげぇガッカリだった。「うん、言っただろ、しないって。このまま帰るって」。コーラを飲み干し帰ろうとしたら、彼女がさらにこう言った。「じゃあ、もうちょっとチップくれない?」。

今思えば、彼女にとって、「ヤル」「ヤラナイ」はあまり重要ではなく、ともかく1000バーツが必要だったんだと思う。ここまで誘っておいて、半分しか稼がないわけにはいかなかったんだと思う。でも、その時のオイラは最後の一言で完全に裏切られた気分だった。さっきのすまなそうな顔はなんだったんだ。さっきまでの優しい態度は全て営業だったのか。オイラの気持ちが全然伝わっていなかったばかりか、さらに追い討ちをかけてきたのが悲しかった。「帰る!」半ば強引に彼女を振り切り外に出た。彼女はあきらめてついてきた。アパートから通りに出るまで、オイラはヤケになって彼女に怒鳴り続けた。「なにも分かってねーんじゃねーか、オイラがどんな思いでやめたのかも、キミにお金をあげたのかも。オイラのこころも気持ちも、なーんにも伝わってねーんだよなっ!」。彼女はオイラをじっと見て、なんともいえない表情をしてこう言った。日本語でこう言ったんだ。

「ばーか。ばか。バカ」。

このときの気持ちをなんと言えばいいんだろう。悲しみ、怒り、悔しさ、ごちゃまぜになって、ホント涙が出そうになった。

通りに出た。オイラはホテルまで歩いて帰ることにした。かなり距離はあるが歩けない距離じゃない。彼女はちょっとびっくりしていた。でも、オイラはともかく一人になりたかった。一人で頭を冷やしたかった。「じゃあな」。オイラはそのまま早足で歩き始めた。彼女はついてこなかった。しばらく歩いていたら、モトサイ(バイクのタクシー)をひろった彼女が横を通り過ぎていった。オイラに向かってふざけたようにニコニコ手を振りながら。どーやら再びディスコに行くようだ。なんかいろんな感情があふれてきてこらえきれなくなり、オイラは彼女にむかって思い切りでかい声で叫んでいた。

「FUCK YOU!」

通り中にオイラの声が響き渡った。びっくりして振り返った人もいた。ハッキリ覚えている。

この後、ホテルまで30分以上歩いた。独りでいろんなことを考えながら歩いた。歩いているうちに気持ちも落ち着いてきた。そーだよな、そもそもはオイラがいけないんだよな。イイ気になりすぎていたんだよな。どこか見下していたところがあったんだよな。スケベ心をだしたからなんだよな。結局相手のことを考えていたようでわかっていなかったんだよな。あそこで1000バーツあげてりゃよかったんかな、チップをあげてりゃよかったんかな、それともナニも渡さずすぐに帰るべきだったんかな、なんてさ。すげぇいろいろ考えた。ま、でも後味は悪かったけど、これも経験、勉強になった。せめてもう2度とこんなことがないよーにしような。・・・・こんな年になってこんな思いをするなんて夢にも思わなかったぜ。ぐっすん。

ホテルに着いたのは2:30だった。シャワーを浴びて、ベランダで一服しながら明日のことを考えてみる。明日はプーケットからバンコクへ移動する日。飛行機は夕方。それまで特に予定もないし、街をブラブラするだけ。今日はいろいろありすぎたなー。さすがに疲れちゃったなー。今日はゆっくり寝よう。明日はギリギリまで寝ていよう。うん、そーしよう。ボーっとした頭でそんなことを考えながらベッドに入った頃にはもう3:00をまわっていた。

プーケット最後の夜はこうして幕を閉じたのであった・・・・・・。


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