南米西海岸の赤道直下にEcuadorという国がある。スペイン語の赤道(英語ではEquator)がそのまま国名になった。但し首都Quito(キト)は標高2,850mの高地にあって涼しいが、低地は熱帯の国だ。インカ帝国の首都は、Peruの古都Cuscoだが、Cuscoも標高3,400mだ。Quitoはインカの副首都で、南北朝時代には北インカの首都だった。ここに観光に来た。
Quitoの北26kmにある赤道記念碑を今回訪問した。Mitad del Mundo=地球の真ん中と称している。半四角錐の上に直径4.5mの地球が載って高さ30mだ。これを中心に東西方向に幅10cm弱のオレンジ色の線が引いてあって、それが赤道だと言っている。赤道を跨いで写真を撮る人が多い。
周知のように、日本では、GPS測量で精度が上がった結果、緯度経度の座標が数百米違ってしまった。明石市の東経135度の記念碑が狂ってしまった。同様なことがここでは起こらなかったのかと現地人のガイドに尋ねたら、「狂ったけど数米」との答えだった。北緯南緯0度は判るが、一体西経何度なんだ? その根拠なしには「世界の真ん中」とは言えないだろう、と気になってWebを参照してみたら、意外なことが分かった。
昔からここにはスペイン侵攻以前のQuitu-Cara文化の遺跡があって、赤道上であることが判っていたらしいという。1736年に最初の調査が行われたことを200年後に記念し、1935年にこの地に高さ10mの記念碑が建てられた。その後この地が赤道から若干外れていることが分かったが、その場所に1979-82年に現在の30mの記念碑が建てられた。つまり正確な赤道を表示するのが目的ではなく、昔からの遺跡があったことや調査が行われたことの記念碑であるらしい。そもそも記念碑を正確に建てるために住民を立ち退かせたり土地を買収したりは大変との現実判断もあったのであろう。
現在では、この記念碑の緯度経度は、南緯8秒、西経78度27分21秒と測量されている。地球の円周4万kmから計算しても分かるように、8秒=240mであり、記念碑の北方240mに赤道が通っている。経度は別に意味はなく、偶々記念碑を中心とした公園を設置し易かっただけであろう。
訪問しなかったが、200m北西には、私立のEthnographic(民俗学) Museum Monumentがあるそうだ。ここでは、盥の水を中央から抜いた時の渦の向きを観光客に見せて人気を博しているそうで、TVでも見たことがある。Coriolisの力で(彼らの言う)赤道の北側に盥を置けば反時計回りの渦ができ、数十米盥を動かして赤道の南側では時計回りの渦になるという実験だ。そんな馬鹿な!! 数十米で影響があるはずがない。
そのCoriolisの力を直感的に見せる模型展示が記念碑の内側にあった。こういう実験は初めて見た。直径1mほどの円盤がある。円と直径が交わる位置にパイプが突き出ていて、水平に噴出する水が円盤の中心に落ちる。この円盤が時計回りに回転し始めると、水流は中心よりも左にカーブして落ちる。これが発見者の名をとってCoriolisの力だ。
直感的にも理解できる。時計回りの円盤の上で円周上の投手が円中心の捕手に球を投げるとしよう。投手自身が回転する円の接線方向に速度を持って動いているので、それが球に移って接線方向に、つまり左側に球は流れる。円盤上の投手には、球は左にカーブするように見える。
北半球のどこかに立つ人は、北半球を回転円盤と仮定した場合の回転成分と、北半球を回転円筒と仮定した場合の回転成分の重み平均で回転を感じるはずだ。Coriolisの力が働くのは回転円盤成分だけで、回転円筒成分ではCoriolisの力はゼロだ。北極に立つ場合は回転円盤成分が100%で回転円筒成分はゼロ、赤道周辺に立つ場合は回転円筒成分がほぼ100%だから、Coriolisの力はほぼゼロで、渦の向きはむしろ外乱で決まる。つまり一寸した手品で渦の回転方向を変えて見せられる。この他に、赤道上では卵が立つというのもあるらしい。卵は緯度に関係なくどこででも立つ。
北半球では台風の低気圧に落ち込む空気も右にカーブしつつ降るから、反時計回りの台風の渦が出来る。南半球では反対になる。
高さ5cmほどの赤道記念碑の模型を近くのお土産屋で買った。うん、やはり240mずれていようとも、こういう記念碑はあった方が面白い。以上