3月2日の夜明けを船室で迎えたら、Amazon河口にはまだ100km以上あるというのに海が泥水だった。揚子江でも似たような経験をしたが、Amazonの流水量毎秒30万トンは世界一で、それに次ぐ10本の川の流水量を足算しても敵わないという。河口から数百kmも真水を押し出しているというから、おそらく前夜暗くなってすぐ泥水が始まったに違いない。Amazonの流水量は、世界の海に注ぐ水の20%を占めるそうだ。その規模に驚く。
Amazonの流域は南米大陸の40%を占め、大陸米国よりやや大きい。網の目のように千本以上の支流がある。Andes山脈はほとんど太平洋岸なので、そのすぐ東側からAmazon流域が始まる。その一番遠い源流から測ってもNile川には数十km敵わずAmazonは世界第2の長さを持つとされてきた。しかし2001年にNational Geographicが探検隊を送り込み、PeruのAndes山中で、Titicaca湖の西、Cuzco市の南にある氷河が融けて崖下に落ちた所から測ると世界一の長さになったと発表しBrazil人南米人を喜ばせた。河口から1,500kmのManaus市までは、我々のような喫水6.3m 48千総トンの中型客船が入れるし、10千トンの小型船ならPeruまで3,600km遡れる。グネグネの1500kmとしても、日本の本州より長い距離を客船が遡れるとは驚く。なお11月から6月に掛けて徐々に増水し7月には10m増水するという。
流域でポルトガル人が原住民と戦った時に、女が男と一緒に戦ったと記録されている。腰蓑を付けた男を女と見間違えたという説もあるが、彼らの目はそれほど節穴ではあるまい。古代ギリシャのHerodotusの記述に、遠い世界にAmazonasという女だけの国があり、女の勇敢な戦士が弓矢を持って戦うとされてきたことから、川の名をAmazonとしたという。恥ずかしいことに私は、川の名が先でHollywood映画が後かと誤解していたが逆だった。今はManausを州都とするBrazil最大の州をAmazonasという。
Manaus市の10kmほど下流で2つの支流の合流がある。西から粘土を含んだカフェラテのような白い水のRio Solimoesが流れてくる。この水は静止すると沈澱する。北西からのRio Negroはその名の通りアイスコーヒーのような黒い水だ。上流からタンニンを溶かして来る色だとかで沈澱しない。大量のタンニンがあるものだ。酸性のため、蚊が住まず従って魚が住まずイルカも居ない。Manaus市は合流点からやや上流の蚊の居ない地域に建設され、2百万人の都市だ。正式にはこの合流から下の1500kmをAmazonと呼ぶ。合流点から数kmにわたって川は2色のまま流れる。境界線の上をボートで行くと、水と油のように綺麗に分かれていて中間色が無い。
Amazonの川幅は場所や増水度合で異なるが、今はおよそ10kmと見た。真ん中を航行すると、熱帯雨林や牧場の両岸がはるか遠くに見え、瀬戸内海を行くようだ。橋が1本も無いのは架橋技術の問題ではなく両岸にろくに道路が無いからだ。川が道路の役割を果たす。Manausから600km下流のSantarem市までハンモックを吊った連絡船で2日掛りでUS$100ほどだと聞いた。因みに日本人観光客は滅多にManausには来ないとのことだった。
1500kmを時速25kmほどで遡ったので60時間掛った。途中3か所で15時間手続きや観光をしたので75時間だ。だから河口からManausまで3昼夜掛った。船はManausで折り返して河口に戻る。今度は流速に乗れるので若干速いのだろう。途中2か所で観光したのは、小さな町のマングローブの湖一周の自然観察と、Indianの村では熱帯雨林に1マイル立ち入り、また学校の先生のアルバイトに乗じてモータボートで小さな支流の自然を観賞しつつ彼の部落の個人宅などを見学した。Manausでは町の観光の他、氾濫湖の自然を観賞して熱帯雨林に上陸し、上記の合流点をボートで見学した。
ナマケモノやワニを抱えたチップ狙いのIndianの子供の写真を撮ると、その収入のために動物の不法捕獲が進むから、写真を撮らないようにとは船で言われていたが、目の前に珍しい動物を持って来られるとつい撮影してしまい、1ドル札で不法捕獲を推奨してしまった。現地人の生活は貧しく質素だ。それに対してRioやManausの都市部のエリートは日本を上回る豊かな生活をしている。だからBrazilのGini係数は世界一高い。
Amazonの大きさと自然の豊かさを実感した日々だった。 以上