世界不況の一環でクルーズ業界も不況と見えて、或る条件下では夫婦2人は1人分の料金とか、リピータは3割引きとか、色々な名目で値引きをしている。おかげで人数的にはこの船は好調だ。船客定員700名に対して、FloridaからPeruのLimaまでは651名、LimaからRio de Janeiroまでは579名が乗っており、満員に近い。FloridaからFloridaまで全工程を行く船客が我々を含めて213名で、他は部分的に乗る船客だ。213名の国籍を見ると181名85%が米人だ。米国の会社が運航するという点だけでなく、世界のクルーズ人口の80%は米人ということがある。カナダ人が9名、英人が8名、豪人が6名、スイス人が3名、独＝New Zealand＝日が2名だ。全工程ではないが実は日本人客の夫婦がもう一組居られた。一度夕食をご一緒にとお誘いしたのだが、ご都合が悪かった。今度は先方が日を提案してくる順番だと思うのだがご提案が無いままになっているので、あまり良く知らないが、ご主人は私より6-7年年上のようで調布にお住まいとか。

　Regentの船客の91%はRepeaterだという。過去の実績によって特典が得られるのは航空会社のMileageと同じだが、距離ではなく宿泊数が尺度で、70泊以上の人はInternetがタダとかだ。昨日夕食に誘ってくれた夫妻は410泊になったと言っていた。Regent以外にも浮気しての数字だ。

　夕食の際に入口の席指定係の士官に「Company Tableを」と頼むと、同じ希望の他の船客と同席させてくれるので、交友が広がる。私は、人付き合いがあまり得意な方ではないが、幸いこういう場面ではワイフが必ず人気者になってくれてるので助かる。但し"Sue's husband"ということになる。重悳だからShigと呼んでもらうことにしているのだが、これがなかなか覚えにくいようだ。ワイフはスミヱだが、子供の頃から今日に至るまで「スー、スーちゃん、スーさん、スー様」で通してきたので、Sueと称しており、これは覚えやすい。故山本英孝氏が「Hで始まる最も一般的な名は何か」という観点からHankと称していたのも一理ある。

　在日米軍の経験を持つ人も少なくない。第2次大戦に従軍した95歳も居て、奥さんが我々を気遣って慌てて「朝鮮戦争ですよね」と言いなおした。年齢は大体我々と同年代から90歳以上の範囲だ。ほとんど退職しているが中にはまだ現役の人も少数居る。飛行機での旅は体力的にきついからクルーズという人も多く、車椅子や杖に頼っている。観光先で「この先階段は何段くらいあるのか」と尋ねる階段の上下が苦しい人が多い。しかし頭は大抵しっかりしていて、教養人であり自信家だ。夫婦どちらかが弱っていて他方が介抱しつつ旅行をしている人もある。

　81歳の元電気回路設計技術者のご主人がAlzheimerか何かで単純な単語を発する以外にほとんど会話できないのを、71歳の美人で多弁な社交家の奥さんが支えている2人と夕食で一緒になった。ご主人の分まで奥さんがメニューから注文し、奥さんが対話を盛り上げた。

　Machu Picchu脱出報告会が船内で行われ、当事者が提供した写真・映像・エピソード・コメントを編集した短編映像が上映された。私が提供した川の濁流の写真が2枚採用された他、こういう危機には人の本性が表れるとしてコメントした次の文章が採用された。

　Mrs. New Zealand devoted herself to help others even when herself was in trouble. Dr. Hawaii was always cheerful and happy, which caused positive effects on our mood. Mrs. England looked always strong and calm, without showing possible inner anxiety.

　Mrs. New Zealandはご主人の面倒だけでなく一同の弱者の面倒を甲斐甲斐しく見た。Dr. Hawaiiとは台湾系米人夫妻のご主人で、若くして米国に留学して結婚しHawaiiに住み付いた。香港の通信会社の幹部を務めていて、一同のムードメーカだった。最後のコメントは、英国に住む愛想の良い伊人のご主人と金髪の英人の奥さんの夫妻で、昔はさぞモテただろうと思われる美男美女だ。常に身なりをきちんとしてオシャレで、ワイフからあなたも見習いなさいと言われている。危機の最中も毅然としていた。

　一流人が多いから付き合っていても気持がいい。　　　　　　　以上