日本の中小企業を従来の私は外から見ていてあまり知らなかった。今毎日中小企業と同一目線で接して新鮮な驚きを覚えている。そういう驚きへの予感が私を西武しんきんキャピタルでの仕事に引き寄せたのだが、幸い予感は的中しており、大変面白い毎日を過ごしている。
「大企業は今モノ作りの局面で疲弊している。今こそ中小企業の好機」と、やり手の中小企業社長A氏が中小企業向けセミナで講演した。大企業にかっては身を置いた一人としては面白くない面もあるが、ごもっともな面もある。A氏の主として金属加工での実感はこうだ。「日本の製造業の大企業はかって強大なモノ作り技術を持っていたが、 (1)分社化・事業部制徹底で細分化され、個々の局面では弱体化。 (2)製造が中国などに出て空洞化。 (3)リストラ減員。 などで手薄になってしまった。」 私はこれに次項を付け加える。 (4)製品の多様化で個々対応が手薄に。 (5)製品のソフト化でモノ作り技術は手薄に。 (6)製品競争力の主体がモノ作りよりもLSIの選択や仕様やデザインに。 (7)世代交代で手薄に。 (8)そもそも大企業はKnow-Howに強いがKnow-Whatが苦手で、必ずしも最先端技術を持たないことあり。
A氏は言う。「大手企業が(大手企業の)部材料調達先は教えるから、(中小企業の)貴社で調達と品質保証までやってSubassemblyまでまとめて納入してくれないか、といった従来は考えられなかったような一括発注が中小企業に要請されるようになった」また「大手企業が、貴社はこの分野の専門家でしょう? 発注図面に改良点があったらどんどん指摘して下さい、と本気でコンサルを要請する」 昔から外注先に改善を求めることは行われてきたが、外注先のコスト面などの改善意欲を刺激するのが主目的だった。ところが最近では、未経験の若い設計者からの図面や発注書が実質ノーチェックで外注先に渡され、外注先の中小企業の技術力に依存するケースが増えているという。うむ、分かる分かる。発注元の設計部は超多忙で、頼れる外注先があれば迷わず寄り掛かりたいのだ。しかしこのことで大手企業が疲弊していると言っては大手が気の毒であろう。大手製造業のゼネコン化は時代の流れである。私が東芝に入社した頃、川崎の柳町工場では旋盤でネジを作っていて、ネジ1本まで自製しているから当社の製品は優秀なのだと教えられた。米国のGeneral Electric社も同様で、東芝はそれを見習ってきたのだと後で知った。今やネジやSubassemblyは外注して、しかし例えば自製で独特のFirmwareや使い勝手に競争力を見出しているのが今日の大手製造業だと思う。
A氏は言う。「大手発注元のキーマンをゴルフ接待や宴会接待して発注を確保し、ぎりぎりのコストカットに耐えてきたのが従来の下請型中小企業。これからの中小企業は、他に代え難い特徴技術を持ち、自ら将来を描いて主体的に行動し、中小企業同士のNetworkで総合力を発揮できるような企業でなければ生き残れない。つまり中国と値段で競争するな」
経済産業省は全国19箇所の「産業クラスター計画」を進めている。中小企業に視点を置いて企業同士の連携、大学と企業の連携、国や地方自治体の産業施策との連携、つまり産・学・官のクラスター化で産業を活性化させようというプロジェクトである。そのモデルケースがTAMA産業活性化協会が推進するTAMAのクラスターとされている。TAMA=Technology-Advanced Metropolitan Areaとゴロ合わせをしているが、埼玉県・神奈川県の一部を含めた広域の「古代の多摩地方」だ。ここでは 産・学・官の連携に金融を加えるという全国初の構想が実現され、Venture Capitalとして我が社「西武しんきんキャピタル」が設立された。つまり我が社は「21世紀型中小企業育成」の使命を持つVenture Capitalなのだ。おかげで案件は手に負えないほど沢山ある。しかも面白い物件が多い。日米のSilicon Valley型企業に触れてきた私には、何も彼も新鮮に見える。 以上