4月1日から110度通信衛星CSで左旋円偏波で4kテレビ(TV)の試験放送が始まったというニュースを見た。興味はあるが我が家では見られない。
現在行われているHiVision地上波デジタル放送は、走査線が1080本だ。この数はAnalog TVの走査線数の約2倍という狙いと、2^10+余裕で決まった。Digital TVの画面の横縦比(Aspect Ratio)は 16:9 だから、水平方向の画素数は1080 x 16/9 = 1920画素である。これを約2千と見て2k方式とか2kTVとか呼ぶ。これを(1920 x 1080)と表記すれば、4kTVは正確に2倍の(3840 x 2160)、8kTVは(7680 x 4320)である。
我が家のTVは4kTVで、画素数では2kTVの4倍だ。放送は2kで送って来るのをTV装置内で補完して4kにして高精細表示をしている。それを放送から4kで送る試験放送が始まったということだ。ただそれを受信する装置は、2018年末の実用化放送まで売り出されない。尤も我が家の12畳の部屋くらいでは、2k放送でも4k放送でもほとんど差は感じられないはずだ。
偏波(光では偏光)の話をしよう。x軸が北の時、y軸を西、z軸を上方とする。z軸を波の進行方向としよう。Maxwellの方程式の解の一つで(私には解けないが)x軸に電界、y軸に同波形同位相の磁界という解が電磁波である。このx軸の電界の振動面が水平の場合を水平偏波(偏光)、垂直な場合を垂直偏波(偏光)という。自然光では電界の振動面は水平や垂直に限らずあらゆる方向の偏光が平等に混じっている。ただ先行する車の後部ガラスの反射光は、水平偏光以外の成分は散乱して水平成分が強まるので、垂直偏光を通す偏光眼鏡をかけて見ると、反射光が和らぐ。
首都圏の家庭のTV用やFM用の八木アンテナは、水平に配置される。水平偏波の電波を受信するからだ。地方に行くと、家毎のアンテナが垂直に配置されているのを見掛けることがある。通常は水平偏波を用いるのだが、周波数が近い放送局同士で混信が心配な場合に一部に垂直偏波を使用している。垂直なアンテナでは水平偏波の電波はほとんど受からない。
地上波放送は、地表の曲面が問題になるような範囲には届かないから、水平(垂直)偏波はどこでも水平(垂直)偏波だ。しかし広範囲をカバーする放送衛星では、或る地点で水平偏波だったとしても、別の遠い地点では水平でないことになり、受信アンテナの設置が難しい。だから衛星では円偏波が使われる。円偏波とは、偏波面が回転しながら螺旋状に進む偏波方式である。(a) x軸に電界波動(y軸に磁界波動)の電波と、(b) y軸に電界(-x軸の磁界)の電波を重畳して送り出す。但し電波の位相を90度ずらしておく。(a)をsin(t)、(b)をsin(t-90度)=-cos(t)(但しt=時間で増大する角度)とすれば、(a)+(b)は進行方向(z軸方向)に向いて反時計回りに回転するので左旋円偏波という。但し電波は右ネジの螺旋を描いて伝搬する。同様に(b)がsin(t+90度)なら右旋円偏波で逆ネジの螺旋となる。従来右旋円偏波が使われてきたが、いよいよ左旋円偏波の登場だ。なお右旋・左旋はしばしば逆の説明・図もあるが、上記が学界の定義だ。因みに植物のツルの右巻・左巻も逆の定義が横行して言葉の意味を成さない。
4月から110度CSで4k試験放送をする主体は「一般社団法人 放送サービス高度化推進協会」だ。放送事業者・メーカ・広告業者などTV関係者が主体となった会費が高い団体だ。この試験放送で4kの実績を作り、2018年末のBS、110度CSによる4k/8kの実用化放送につなげる。勿論東京 Olympicsを睨んでの計画だ。Public Viewingのような用途では、大画面で細部まで見えるのだから大いに評価されるだろう。
因みに放送衛星BSは通信衛星CSの一種ではあるが、放送専用のためチャネル数が少ない代わりに出力が大きく、隣国への漏れが最小になるように周波数の割り当てがあり、アンテナの指向性の工夫がある。日本の放送衛星は、日本列島の形の電界強度になるような特殊設計のアンテナを使う。日本の今迄のBSは右旋円偏波を使い、韓国のBSは左旋を使ってきた。左旋用のアンテナでは右旋の電波は受信できない。日本のBSは、110度CSと共に東経110度に上がっているので、西安付近から見た真南で、東経140度の東京から見れば(経度差は30度だが)真南から30度弱西にある。 以上