Lisa Randallという名前を覚えておこう。米名門大学のHarvard, MIT, Princetonで終身教授の物理の美人教授で43歳の独身だ。彼女の5次元論がEinsteinに並ぶ名声を得るかも知れぬと彼女の新著を読んで思った。 Lisa Randall "Warped Passages" Harper Collins Publishers, pp500
物理の本はNewtonから始まる。我々が高校で習った力学や微積分はNewtonが形作った。3百年以上前の1687年に発表された3次元空間での理論で、我々の身の回りの物理現象とよく合致する。所が幾つかの不具合が発見された。(1)不動の絶対座標を仮定した上で速度や加速度を論じたが、どこにそんな絶対座標があるのかという疑問。(2)地球が動く方向に関係なく光の速度は常に一定だったという不思議。(3)原子核のまわりに電子が回っているというが、電子は電磁波を出しながら段々失速して回転半径が小さくなり、原子核と合体するはずなのに、そうならない不思議。
Einsteinは、絶対座標など無くて、観測者がそれぞれ座標系を持つ(だから相対的)と考え、また光は常に一定速度だとして理論構築し、1905年に加速度を含まない(慣性系の)特殊相対性理論を発表した。すると計算上、時間は均一に経過するものではなく観測者の位置と動きによって異なる時間が経過するから、我々は3次元+時間の4次元世界に居るとした。
一方Planckは1900年に最初の量子理論を発表し、Schroedinger、Bohr、Heisenbergなどが完成した。万物には量子という「粒」があり、光やエネルギーも粒ごとに階段的に増減する。長さにまで粒がある。原子の中で回転する電子のエネルギーも、失うとすれば粒で失い一粒の光に変わるか、全く失われないかである。ここまでは大学の教養課程の物理で教えるから、私も充分理解しているつもりだが、所詮百年前の物理だ。
Einsteinは1916年に加速度と重力を組み込んだ一般相対性理論を発表した。人工衛星やGPSも一般相対性理論で動く。これに必要な高級な数学の力を持たない私は、悔しいことに概念を理解するに止まっている。
やがて原子核を構成する陽子や中性子も、クオークなどの素粒子の組合せで構成されるという素粒子理論が生まれ、実験的に確認された数十種類の素粒子を含めて標準理論Standard Modelとして完成した。更に進んで1968年から今日まで、10^-35 m程度の微小なヒモが様々に振動して素粒子が生じるとするヒモ理論が生まれ、超ヒモ理論、M理論と進化する中で、Einsteinが遂に果たせなかった相対性理論と量子理論を統合する統一理論に成り得るとの期待が高まった。ヒモ理論では世界は10次元、M理論では11次元だとする。我々の周囲は4次元にしか見えないが、余分な6-7次元は微小なループ状に丸まっているから、日常生活や実験では見えないと説く。因みに標準理論にせよヒモ理論にせよ、理論的に導かれる重力の強さに比べて実際は16桁も弱いという問題点を抱えている。磁石に吸い付いたクリップを全地球の重力が引っ張っても勝てないほどだ。
この問題点を解決する仮説RS1をRandall女史とSundrum氏は1999年に発表した。4次元の部分世界「Brane」2つが、サンドイッチのように5次元世界を挟むとする。我々の世界はこの4次元Braneの一方であり、他方には全く異なる世界がある。標準理論の素粒子は全て我がBrane内にあるが、重力を司る素粒子Gravitonだけは5次元世界の存在で、その分布が一様ではなく指数関数的に偏った「歪んだ通路」Warped Passagesにあるために我が世界に届く重力は弱いとする。両氏はその後第2の仮説RS2を出した。サンドイッチではなく、無限に広がる5次元世界の一端に我が4次元Braneがあっても同様だとした。ただし仮説の4-5次元の上にヒモ理論の多次元が構築されることを、両氏は肯定も否定もしてはいない。
この仮説はRandall女史を時の人にした。2007年稼動のスイスCERN研のLHC実験装置で当否が判明する。特殊で複雑な世界を神が創造されたはずはないと私は直感的に思う。10-11次元中の6-7次元は小さく丸まっているという世界より、我が4次元世界の外側に5次元世界が広がるというRS2の方がずっと自然だ。それが近く実証され、Einsteinと並ぶ偉業となる可能性もあると素人なりに感じたのは、美人贔屓の悪い癖だろうか。 以上