4月4日のマスコミは「京大数理解析研の天才数学者望月新一教授が、数学の難問『ABC予想』を証明した」と報じた。『ABC予想』とは初耳だったが、整数論をかって勉強した次男はさすがに知っていた。証明には6百頁を要したというから、覗いて見ようとも私は思わないし、理解できるはずがないと諦めたが、それでも生涯IT技術者を目指す私としては、マスコミの説明に満足せず、もう一回り詳しいレベルで理解したいと思った。
望月教授が2012年にHPに証明を発表して以来、一部の数学者は「その証明は間違っている」と言い、望月教授は間違いを認めたが結論は不変として修正論文を出した。一部の数学者は修正後の望月論文は正しいと言い、大多数の数学者は「人生は短い」と6百頁を読み下す時間を惜しんで問題の正否から距離を置く、という不思議な構図も興味深い。数理解析研機関誌 RIMS=Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences の首席編集者である望月教授自身が審査に加わらなければ公正だと、RIMSが望月論文を4月3日号に掲載したことで、望月論文が正しいと認められたとマスコミは報じた。私には勿論判断できないが、誰も否定論を最近は出していないから、多分正しいのだろうと推察している。
驚いたことに日英のWikiには『ABC予想』『ABC Conjecture』という項目があり、4月3日号のことまで既に書いてある。問題を説明するには、
素数=Prime Number=1と自分自身以外では割り切れない数
e.g. 2, 3, 5, 7, 11, 13,.....
素因数分解=或る数(自然数)を素数の積に分解すること
e.g. 36=2^2 x 3^2 (2^2 は2の2乗)
を基礎知識として、Wikiもそうしているように、根基=Radicalという整数論上の関数 rad()を使う方が分かり易い。
rad(n) = ( n を素因数分解して、素数を1回ずつ掛算した値)
e.g rad(300)=rad(2^2 x 3 x 5^2) = 2 x 3 x 5 = 30
そこで『ABC予想』とは、「a+b=cである時、c > rad(abc) である場合は珍しく、そういうa, b, c の組合せは有限個しかない。」という命題だ。但しa, bは自然数で、1, 2, 3, ...
例えば (1) a=1, b=8, c=9 (2) a=4, b=9, c=13 で上式を計算すると、
(1) 9 > rad(72)=rad(2^3 x 3^2)=2 x 3 = 6
(2) 13 < rad(2^2 x 3^2 x 13)=2 x 3 x 13 = 78
となる。(1)のような場合は珍しく、有限であり、(2)のような場合がほとんどである、というのが『ABC予想』だ。
正確には、c > (rad(abc))^(1+ε) ε> 0 を満たす、互いに素である自然数a, b, c の組は有限であるとしている。εが大きくなれば不等号は成り立たなくなる。逆にεが0に近付けば、1+εは1に近くなる。
これをComputerで調べた人が居て、Wikiに結果の表が出ている。cが2桁以下(1〜99)の場合のa, b, cの組合せは数千通りになるが、その中で不等号が成り立つのはεがゼロに近い場合には6通り(表の一番左。その1つが上記(1))と記述されている。全体の1%以下の割合に過ぎない。cが10桁の場合は約12万通りで、全体の1/10^15 ほどの珍しさとなる。
こんなことを証明して何になるのか、と気になるが、望月教授は「宇宙際タイヒミュラー理論=inter-universal Teichmuller(独人名) theory」という新しい数学を創造したそうで、物理学での相対性理論のように数学の学問の仕組みが変わるほどのインパクトがあるのだという。それで「ABC予測」も、他の幾つかの予測も証明できるようになったという。では幾つかの予測が証明されたらどういう利得があるかと、工学部出はすぐ考えてしまう。応用に捉われず真理を追究して行くと、何時か大きな応用に巡り合うというのが理学系の価値観だ。事実、整数論から暗号システムが生まれたし、相対性理論抜きではGPSも出来なかった。
「自分が首席編集者の専門誌に公表しても、証明が認められたとは言えない」とも言われるが、当初の発表から8年経過し、近年は多分誰も6百頁を検証しておらず、反論が無いから公表しようとなったのだろう。以上