米国にCDVC=Community Development Venture Capital=地域開発VC、およびその連合会CDVCA=CDVC Allianceというものがあることを、会社で回覧された大手VCのNIFの機関紙 NIF News 9月号で知り、興味を持って
http://www.cdvca.org/
にたどり着いた。働き口、起業力、富、を創り出し、低収入層の生活と困窮地域の経済を改善するために、VC手段を使うことを促進するのがCDVCAだと冒頭にあり、更に"Double Bottom Line Investing"だと明言している。Bottom Lineとは損益計算書の末尾に書かれる事業損益だが、CDVCは損益だけでなく、地域振興も最終目的にするから"Double"なのだ。私が特に興味を持った理由は、現在関与しているVCが地域振興を使命に掲げており、利益との両立に日頃悩むことが多いからだ。
CDVC連合会は、全米数十社の会員CDVC同士の情報交換・訓練・サービスだけでなく、自ら$6M ほどのFundを持って会員CDVCの基金に投資、あるいはCDVCの投資先に一緒に投資したり、どのCDVCもまだカバーしていない地域に投資する。米国以外のCDVCも16社が連合会に参加している。日本には無く欧亜大陸と南北米大陸に広く分布している。金集めに苦労するという当然な話の後に、それでも諸基金、政府外郭機関、金融機関、有志などから資金が集まっている様子が述べられている。
連合会がNew York市のど真ん中にあるためか全米の会員CDVCの分布には特徴がある。東部諸州に数件ずつ固まっていて他の諸州は1-2件だ。例えばThe New York City Investment Fundは、1996年に68の個人および企業から、償還せず再投資する約束の資金を$1Mずつ集め、New York市のためになるよう雇用創出、困窮地域の再活性化、および先進アイディアに投資している。個人が1億円出資するんだから米国だなあ。Boston Community Venture Fund は、基本哲学として財務的リターンと社会的リターンは両立すると考え、$21Mの資金で低収入者の雇用を創出し、低収入地域に高品質の商品やサービスを提供して地域を安定化し、女性と少数民族が所有する企業を優先するとしている。また環境を改善する企業を助ける。銀行群から$20Mを集めたSan FranciscoのPacific Community Ventures も同様だが、ここでは成果は(1)IRR=利回りと(2)雇用創出数で量ると明言している。そのため投資企業には低所得地域から10名以上雇用するという条件をつけている。その投資先を見ると、(1)国立公園近くの宿泊設備を所有・運営し、若者を雇用して訓練する会社、(2)35名を雇用する引越し屋、(3)ワインを国内他州に出荷するサービス業、(3)少数民族向けスペイン語ラジオ放送番組制作業、(4)牧畜業、(5)バッグ製造販売業がある。
西欧の会員はLondonの2社のみだ。その一つFoursome Investmentsは或る富裕家族の金で環境技術、有機農法、後進国支援(Fair Trade)の若い企業に投資している。中国で唯一の会員は四川省にあり、省経済の発展のために小企業に投資している。投資家は米・独・ノルウェー・スウェーデンなどの外資が主体だ。MecedoniaやCroatiaの会員も同様に外国資本で、戦乱の痛手からの回復を助けようとする善意が働いている。USAID=US Agency for International Developmentという海外支援政府機関が資金を提供し、SEAF=Small Enterprise Assistance Fundsという組織が資金運用の一環としてこれら外国会員を財務的に支援している。日本もODAのごく一部をこのように使えば効果的に金が使えるではないか。
冒頭のNIF Newsの対比表に必ずしも拘らず、私見で従来の米国のVCとCDVCとを対比すれば次のようになる。
対比項目 従来の米VC CDVC
ファンド規模 多くは $100M 以上 $5M多〜$20M多〜$50M
投資規模 多くは$5M以上 多くは$1M以下
投資先 ハイテク 少数民族・女性 環境企業
目的 利回り 地域振興と利回りの両立
投資地域 ハイテク地域 後進・低所得地域
地域振興と利回りの二兎追求に確信を持っているから驚く。 以上