本を読んでいた隣席に経済学部卒の友人が座ったので「経済学を勉強してるんですよ」と言ったら「MMTですか?」と返された。「えっ、この頁を横目で見てMMTと判りましたか?」というと「今経済学の本を読んでおられるとしたらMMTしかないでしょう」と、後日関連資料を送って呉れた。
今MMT=Modern Monetary Theory=現代通貨理論が熱い。世の中では現代「貨幣」理論と訳すが、私には「通貨」の方がシックリする。「財政赤字が幾ら大きくても構わない」という理論を振りかざす State University of New York Stony Brook校の美人教授Stephanie Kelton氏(1969-)が最近来日して、講演や記者会見を行ったので話題になった。早速彼女の本をAmazonで探したら「2020/6に出版予定」だった。仕方なく比較的安い次の本を買った。イカサマ理論かも知れないのに高い本に投資はできない。
Understanding Modern Money, L. Randall Wray,Bard College,2016/3
冒頭の対話は本書を読んでいた時の話だ。但しMMTの概要を把握したい私と同じ目的なら本書はお勧めしない。しかし苦労の末目的は達した。著者は露生まれ、英で教育を受け、1939年に渡米して活躍し、現職はNew York州の北方のBard Collegeの教授だ。本書はAbba Lerner(1903-1982)の1943年の著作に基づいてMMTを解説している。なんだ古い話なんだな。
MMTは次のように言う。財政赤字が続くと国の借金が増え、国の信用が落ち、最悪は破綻に至ると伝統的に信じられており、財政赤字は避けるべき悪だという常識があるが、それは誤解だと。政府が賢く運営すれば、財政赤字を気にすることは無いと。企業も家計も赤字を続ければ潰れてしまうが、国が企業や家計と違うのは、通貨を印刷できることだ。しかし国債を発行すると国の借金が増え、信用されなくなって国債が売れなくなり、国は破綻する。数年前にギリシャはその寸前まで行った。
国債ではなく、通貨を印刷すればよい。或いは日本のように国債を中央銀行が買い占めれば、国債が売れる売れないの心配もなく、幾らでも財政赤字は積み増せる。但し通貨量が過大となり、インフレになってはいけないから、賢く通貨量を制御する必要がある。通貨量の制御手段は、増税で巻き上げるか、歳出を絞ることだと。税金は歳入を確保する手段だと思わずに、通貨量の制御手段だと考えればよいと。一方国債も、財政赤字補填手段と考えずに、金利の制御手段として考えるのがよいと。金利が民間投資を制御するからだ。税と国債を上記のように決め、それでも財政赤字が埋まらないなら、通貨を印刷するという考え方の順番であるべきだと。
歳出制限と増税は典型的な財政健全化手段だから、なんだやることは同じか。いや財政赤字は許容するが、インフレは制御せよと言っている。
私はVictoria滝を見たくて、5月にAfricaのZimbabweを観光した。何々Billionとかゼロが一杯付いたZimbabwe中央銀行券を1枚$1で買って欲しいと何人もが迫って来た。お土産に面白いから10枚ほど買った。インフレで国が立ち行かなくなり、米ドル主体に英Poundや南阿Randなど外国の通貨を使うMultiCurrencyだとホテルマンはカッコ良く答えた。
独の第1次大戦後のHyper-Inflationの実体験を語ってくれた独人の超老人に出遭ったことがある。独はインフレの悪夢を教訓として、以降財政赤字を絶対に出さない財政政策を貫いている。日本は第2次大戦中、国民に郵便貯金を奨励して戦費に使った。終戦後引き出されると国が破綻するから口座を凍結し、極端なモノ不足から百倍ほどのインフレが発生してから口座を解禁した。おかげで父親の貯金も国債も紙切れ同然になった。
インフレは庶民の犠牲において、累積財政赤字を軽くする。年2%のインフレでも、10年で22%、20年で49%だ。日本政府も望んでいるはずだ。
私はMMTは面白いが論文の上の計算だけに留めておくべき理論だと看破した。政治家が知ったら必ず暴走する。「インフレは歳出減と増税で防ぐ」なんて出来るはずがない。Populism台頭の中で近年の福祉減と消費増税の困難でも明らかだ。しかし「政府と日銀を一体と考えれば、通貨増刷か国債の買い占めで或る程度の累積赤字は対処可能」という話は信じている。だから日本は低金利で円高方向、伝統的経済学には反している。以上