8月1日のNew York Timesの社説は、Mr. Abe on the ropes(ロープ際)という表題で次のように述べている。
「Japan's deeply unpopular prime ministerは、参議院の改選121議席のうち37議席しか取れなかったが辞任しないと言っている。衆議院を握っている限り法的には辞める必要は無いが、路線変更は必至だ。軍事的国家主義の復活に尽力していたのを抑制し、指導力とクリーンな政府にもっと注力しなければならない。戦時中の蛮行を否定したり日本の平和憲法を改訂しようとする安倍首相の国家主義路線を、選挙は明確に否定したものではないが、中国や韓国に日本の軍国主義による傷を思い出させるのは得策ではない。安倍首相が軍国的精神の復活にばかり注力したことが選挙民を困惑させた。また年金問題をないがしろにし、小泉前首相が追放した古い政治家を招き入れたことで選挙民は離れていった。
勝利した民主党は自民党と同じ中道右派だが、安倍首相の10ヶ月の無能と醜聞の重荷がなかった。しかしもし2大政党への道とすれば日本の全国民にとってGood Newsだ。戦後のほとんどを日本は1党支配で過ごし、汚職と利益誘導型の政治文化が育った。それに立ち向かった小泉前首相は人気を得て、それに身を任せた安倍首相は代償を払っている。」
安倍首相が軍国主義だとは私は思わないし、「自衛隊は憲法9条に照らして合法」とも思えないから改訂は必要だろう。その点の誇張を別にすればさすがNew York Timesは短い論説に本質を捉えている。 翌々日8月3日の同紙はAssociated Pressの Abe Defeat Could Impact Support for U.S.という記事を掲げた。
「安倍首相の敗北で、勢づいた野党がWashingtonとの関係を見直し、米国主導のIraq、Afghanistanでの作戦への支援が危うくなるかも知れない。日本の地上軍は撤退したが空軍と艦船は依然支援している。この作戦は一般大衆には不人気で憲法違反だという人も多いが、自民党は常にそれを支える力を持ってきた。それが急速に変わろうとしている。
11月で切れるテロ対策特別措置法を自民党は延長しようとしていたが、民主党がそれを困難にしている。民主党は更に日本の国際協力は米国の下ではなく国連経由にすべきだとの理由で、空軍の協力を止めたいという。安倍首相は勇敢にも、日本の部隊が危機に際して国際協力する場合の制限をゆるめる憲法改正を推してきた。しかし醜聞と年金問題が安倍首相の政治力を侵蝕したので、彼を内向きにさせている。
しかし自民党は衆議院を抑えているし、民主党が完全に米国と手を切るとは考えられない。5万人の米兵が日本に展開されている。小池防衛相は「米国軽視は日本の国益に有害」と民主党を非難した。」
この記事も米国の心配を正確に捉えている。
定員5名の東京選挙区では、民主党2番手の前評判だった大河原氏がトップ当選し、当落線上と言われた丸川氏が確実のはずだった保坂氏を落選させて4位当選した。私のような浮動票が、前評判を参考に当落線上の候補者に戦略的に投票したに違いない。また必ずしも民社党を支持した訳ではなく、自民党にお灸をすえたいと思った有権者が多かったに違いない。郵政選挙における民主党のダラシなさが見えれば、簡単にひっくり返る。
「このままでは日本があぶない! 民主党」という小沢氏のポスタが張られた。政権奪取が最優先という小沢氏は、なりふり構わず集票活動をした。何十年も懸案だった年金を自民党攻撃の先鋒に据えた。格差解消と称して、農家の所得保障、中学校まで子供手当、高速道路無料化、公立高校無償化、最低賃金引き上げとそれで痛む中小企業に対策費、年金に税金投入、などかなり手形を切った。私には空手形と思えるが真面目に信じた有権者も多かったに違いない。この戦略に安倍首相はなす術を失った。
安倍首相は民意を読み間違えた。情報が充分入る体制になっていないのではないか。だから郵政造反議員を復党させ赤城農相をまことに妙なタイミングでクビにした。閣僚の失言ドミノは緊張感の欠如を想像させる。皆で担ぎ上げた後輩格の安倍首相は、コワくないのだろう。 以上