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うつせみAdvanced
2019年10月 4日
          量子ベイズ主義

 別稿で「ベイズ推定」=Bayesian Inferenceを取り上げた。その考え方を量子力学=Quantum Mechanicsに応用する量子ベイズ主義=Quantum-Bayesian-ism=QBism[kju:bizm]があると知り次の本を求めた。
  QBism, Hans Christian von Baeyer, 松浦俊輔訳 森北出版 2018/3
通常訳本でなく英語で読む方針だが、今回はある程度予備知識があると思ったので、読み飛ばすつもりで訳本を読んだ。

 量子力学と不可分の確率論をベイズ確率=Bayesian Probabilityで解釈すると、直感的でない量子力学がスッキリ理解できるという売り文句だ。ただ別稿の高齢運転者の死亡事故率で用いた公式を使う訳ではなく、ベイズ推定の@「確率は行為主体の期待値」であることと、A「行為主体から独立した自然現象としての確率は無い」こと、従ってB「行為主体が実験せぬ限り確率は無い」ことを強調しているようだった。例えば「太陽が毎朝昇る」ことや、「宝籤抽選会場で使う円盤で矢が1に当たる」などの確率は、誰かが過去に得た知識・情報を元に期待する度合いだという。

 筆者は既に引退しているが、一生を量子力学の研究と学生教育に注ぎ込んで来た教授で、勿論量子力学は熟知している。量子力学の理論値は、全て実験値と整合するから、量子力学は物理学界で疑いもなく承認された理論だ。それにも拘わらず筆者は、量子力学に何故かシックリ来ないモヤモヤを抱えて来たそうだ。それがQBismを学んでから、ストンと腑に落ちたという。白状すれば私の腑には落ちなかったが、QBismは理解した。

 実際量子力学は不思議な現象を告げる。例えば、感光スクリーンに向けて電子銃から電子を1個ずつ発射するとしよう。ライフル銃なら弾丸はスクリーンの1点を射抜くだけだが、電子は違う。電子はSchrodingerの波動関数に従ってスクリーンに向かって電子銃から拡がって行く。その関数値は、(QBismではない客観的数学的な解釈では)電子の存在確率を表し、真正面の確率を極大として正規分布的に円錐状に拡がる。波動関数の波面が感光スクリーンに達した時、電子はたった1点の痕跡を感光スクリーン上に残す。つまり電子銃から発射された電子1個は、波動関数が告げる確率で的を外す。実験を繰り返すと、真正面に痕跡は集中するものの、真正面に近い場所には多く、遠い場所には少なく、円形に痕跡が分布する。弓道の矢の痕跡のようだ。量子力学はこれを量子力学的バラツキと称し、正確に確率分布を予言する。

 量子力学では、電子の波動関数が拡がって行き、スクリーンに達した瞬間に波動関数が1点に収縮するという「波動関数の収縮」でこれを説明する。拡がっていた確率が1点で確率=1になる収縮だ。何故収縮するんだという点にモヤモヤが残る。或いは、波動関数の確率で電子はアチコチにフラ付いていて、波面がスクリーンに達した時には偶々その位置に電子が居た、と解釈することも出来る。この場合は、電子が広範囲にフラついているという点にモヤモヤが残る。量子とは所詮そういうものなのだと諦めて、宗教の教義のように信じれば、実験結果とよく整合する「救い」が得られるというのが、Non-QBismだ。

 因みに素粒子は勿論量子力学に従うが、素粒子の塊である原子やイオン分子や、60-70個の原子から成る球状炭素分子Fullereneに至るまで、量子力学に従うという。上記の電子のようにバラつくし、Fullereneを二重スリットに向けて発射すると、スリットの先に干渉縞が出来るそうだ。

 QBismはこのモヤモヤを解決する。電子がスクリ−ンに達するまでは、誰も観測していないのだから、確率も結論も無いという。コインを投げて表裏で判定する場合で言えば、コインが空中を舞っている間は確率も結論も無いのと同じだと。スクリーンに到達した時にそれを観測して初めて確率分布に従って痕跡をスクリーンに残す。観測者はスクリーン上の分布を複数回観測して経験を積み、次回の観測の結果を主体的に推察する。電子Spinの値は存在せず、行為主体との相互作用でSpin値が生じるという。

 ただ折角Schrodingerの波動関数という数学が実験に整合しているのだから、直感に背を向け数学を信じた方がスッキリするように思うが。以上