非生命科学は何にでも興味があり勉強して来たが、生命科学はなぜか興味が薄く避けて来た。しかし昨今の趨勢では避けてばかりも居られないと覚悟を決めて、機会がある度に少しずつ勉強するようにしている。ただ悲しいかな寄る年波で学ぶ傍から忘れてしまう。今回は、知っているようで知らない、すぐ忘れてしまう遺伝子DNAとRNAの周辺を整理してみよう。
人間は60兆個の細胞=Cellから出来ていて、毎日0.3兆個が死に、同数が生まれ、半年でほぼ全細胞が入れ替わる。但し心筋細胞は例外で再生しないと言われている。全て入れ替わっても同じ遺伝子で細胞が作られるから、別人にはならない。全ての個々の細胞が、全身体が作れる情報を遺伝子情報としては持っているが、環境ごとに特定細胞にしか再生せず、心臓には毛は生えない。皮膚から取った細胞をResetしてiPS細胞にすれば、培養して心臓にもなるし、精子も作れる。純理論的には、同一人のiPS細胞から精子と卵子を作り、子宮が借りられれば子孫が作れるそうだ。そのうちに同性婚者、特に女性同士が、子供を持つようになるかも知れない。
人の細胞の多くは直径10-20μm=百分の1mm程度で、細胞膜に覆われている。中心に細胞核=Cell Nucleus、周辺に細胞質=Cytoplasmがある。細胞核には染色体=Chromosomeがある。人の場合は常染色体が22対44本、性染色体が1対2本ある。各対の片方は父親由来、他は母親由来だ。各染色体には二重螺旋構造のDNAが1対ずつ入っていて46対ある。二重螺旋では、A, T, G, Cの4種類の塩基から成る A-T, T-A, G-C, C-Gの4種類の結合が螺旋階段の各ステップを形成する。46対の螺旋階段は合計60億ステップある。この内3億ステップ程の情報が、身体の部位を構成する2万種類の蛋白質を、20種類のアミノ酸を特定順列で連鎖させて生成するための情報だ。
細胞が2個に分裂する時には、DNAは2本の一重螺旋に分かれ、分裂後に二重化する。なお新型コロナウイルスでは、上記60億ステップが3万ステップ(但しDNAは持たずRNAのみ)、蛋白質が2万種ではなく30種である。
蛋白質の生成はRNAの仕事で、3種類のRNAが登場する。DNAの中の蛋白質生成情報のステップの結合を一時的にほどきRNAと結合して、DNAと同じ情報(相補関係)をRNAに転写し、Messenger RNA=mRNAとする。mRNAは細胞核から細胞質に出て、蛋白質生成のための構造体リボソーム=Ribosomeと結合し、以下の手順で細胞質内のアミノ酸を、遺伝情報通りに連鎖させて蛋白質を作る。アミノ酸の種類は、3個の塩基で構成される情報で指定される。短いTransfer RNA=tRNAは、一端で特定アミノ酸と結合し、他端にそのアミノ酸固有の3個の塩基を持つ。Ribosomeは、mRNAの3個の塩基に合致するtRNAを一時的に結合させる。Ribosome RNA=rRNAが触媒のように作用し、tRNAが運んで来たアミノ酸を次々に連結する。役目を終えたtRNAはRibosome・mRNAから去る。これを繰り返して、mRNAの指定通りのアミノ酸連鎖が完成し、所定蛋白質となる。このようにして、DNAの情報に基づくmRNAの情報が指示する通りの蛋白質が生成される。因みにウイルスは、この仕組みを利用し、ウイルスを作るmRNAを細胞に侵入させて増殖する。
上記のように、アミノ酸20種類から特定のものを指定するのに、DNA/RNAは3個の塩基を使い、3桁の4進法で指定する。(4の2乗)<20<(4の3乗)だ。進化の過程で4進法に通じた数学者か神様が設計したに違いない。
近年研究されているのが、細胞外RNA=exRNAだ。その一種で数十塩基程度の短いmicroRNA=miRNAを脂質で包んだ小胞=Vesicle=Exosomeが細胞内で作られ、細胞外に出て血液・唾液・小便などあらゆる液体に漂い、別の細胞に吸収され、細胞間の情報通信を担う。人間ドックで検査されるPSAは、前立腺癌の活性化を伝えるExosomeだ。Exosomeはこのように、疾病の診断や、細胞の特定方向への活性化で治療に使う研究が進んでいる。
新型コロナウイルスのワクチン開発で、米大手Pfizer社と、起業会社Moderna社は、それぞれ最新のmRNA方式で進めている。ウイルス表面の百本近い突起物だけを作るmRNAを脂質に包んでExosomeとして人に注入する。体内で突起物が増殖し、それと闘う抗体が出来る。本物のウイルスが侵入してきても、その抗体が闘ってくれることを期待している。 以上