米友人に勧められTrump前大統領の最後の1年間を描いた本を読んだ。 "I alone can fix it" Carol Philip & Leonnig Rucker, Penguin Press 2021 600頁。別稿「Trump大統領の最後の日」の他に、ここではTrump大統領の性格について愚見を述べる。本書の一節に次の記述があった。
米軍海兵隊Marineのトップから引退したばかりのJohn Kelly氏を新任のTrump大統領は国土安全保障長官に据えたが、半年後に大統領首席補佐官(White Houseのトップ)に抜擢、しかし1年半後にKelly氏は退任した。彼は記録に残るようなTrump氏批判は一切していないが、The Washington Post紙の親しい友人に送った次のemailを、本書の著者は発見してしまったという。なぜ短期で退任してしまったのか判る気がする。
「この国のどの職務であれ、誰をそこに選ぶかは無限に厳しく見る必要がある。その職務に就きたい人の性格、道徳、倫理的な記録、誠実さ、正直さ、欠点、女性や少数者につき何を語ったか、何よりも何故その職務に就きたいのか、を見る必要がある。その次に政治見解を見るべきだ。」
本書の多数の臨場感溢れる逸話を読むうちに、Trump氏の性格的欠陥を再認識せざるを得なかった。次のような特徴を挙げることができる。
1.強烈な自己肯定。恐らく反省したり謝ったりしたことは一度も無いに違いない。世間常識で見ると、自分の業績は勿論誇るが、自分が反対した他人の業績も成功すれば自分が推進した業績にするし、失敗しても成功と強弁して誇る。本人の意識ではそれが自分の業績だと確信している。
2.上記1のためには、嘘をつく必要が生じる。百万人が白と言っても黒と言い張る厚かましさが必要になる。これは世間常識から見ての言い方であって、本人に嘘という意識はなく、自分の偉大さを信じられる天分だと思われる。例えば就任式の際の支持者群衆の数がObama氏の時より少ないと写真を見せられても、偉大な自分に熱烈な支持者が多いのだからObama如きに負けるはずはなく、撮影のタイミングの問題だと言い張る。
3.上記1の結果として、他人の言うことを聞かない。正確には自分の言うことと同じならよいが、偉大な自分の言うことと違う話は絶対に受け付けない。だから何人優秀な部下を持っても、部下の知恵は生きない。
4.上記3の結果として、周辺に居て或る程度Trump氏に意見が言える人は、全てTrump氏を礼賛し同じ意見を言う人に限られて来る。そういう人の話しか聞かないから、上記1が定着する。
5.偉大な自分が再選されないなどということがあってはならない。だから再選が厳しくなるにつれて、国のためよりも再選のための施策を追うようになった。次項の岩盤支持層に訴求する施策に拘った。
6.Trump氏には一般市民の岩盤支持層が居る。誰かが議員に立候補して「私は熱狂的なTrump支持者です」と言うと、岩盤支持層の票がベースに入る。だから共和党議員の多数は、心中で本当にTrump氏支持か否かは別として、発言・行動ではTrump氏を支持する。そういう政治家の存在は、岩盤支持層の維持発展に貢献する。共和党はTrump党の様相を見せる。
ではどんな人が一般市民の岩盤支持層なのか。例えば大統領選の帰趨を覆すような選挙不正は無かったという複数の裁判所の判決や、Trump政権内の司法長官Attorney Generalが言っても信じることなく、Trump氏自身が証拠を示さずに強烈に列挙する選挙不正を信じる人達だ。それにQAnonのようなカルトめいた極右勢力が影響を拡げる。現状に光明を見出せない人々が論理を捨てて、キリスト教やイスラム教に帰依する代わりにTrump教に帰依しているように見える。Trump氏はそういう岩盤支持層に、変化を求める浮動票を積んで大統領選を制し、浮動票が幻滅したため大統領選で負けた。少し賢くなった米国民は再びTrump氏を当選させはすまい。
Trump氏は間違いなく特異な人格だと思うが、一流企業のトップにも時々同類が居ることに気付く。トップにも色々なタイプがあって、論理で上り詰めた人、人格の人、宗教に帰依した世界観の人、幸運の人、など様々だが、確かにTrump的な性格でトップに上った人も思い出す。残念なことではあるが、組織の頂点に立つ一つの要素なのかも知れない。以上