総選挙が始まった。安倍首相は「この道しかない!!」とAbenomicsの継続を掲げている。周知のように「第1の矢」=金融緩和、「第2の矢」=財政政策、「第3の矢」=成長戦略だ。私は次のように評価している。
金融緩和は望外の成功を収め、少なくとも今までの所ではデフレを止め景気回復の兆しを得た。通貨増→金利低下→需要増・貨幣安→景気・物価上昇という関係は経済学界を初め誰もが認める関係だ。但し日本の如くゼロ金利だと金利低下が無いから金融緩和は効かないと日本の学者主流派と2012年までの日銀(私は「日本派」と呼ぶ)は主張していた。経済学用語で「流動性の罠=Liquidity Trap」という。日銀は「故に金融緩和ではデフレは解消しない。しかも不況がデフレを生んでいる。不況は政治の問題」と主張し、政府からと国際的な金融緩和要請に面従腹背を重ねた。
2008年Nobel経済学賞のPaul Krugman教授は1998年の論文で「ゼロ金利でも金融緩和でインフレ予想が広まれば、現在の需要増・貨幣安になる」と主張し、日銀とは逆に「デフレが不況を呼んでいる」として日本に金融緩和を強く迫っていた。国際的には後者が主流なので、私は国際派と呼ぶ。国際派のYale大名誉教授浜田宏一氏は古くから安倍氏のBrainだったので、安倍首相は恐らく国際派に賭けたのだと推察している。結果的にはKrugman論文が正しく、日本派が間違っていたことが証明され、長年の日銀の不作為の罪、それを許した政治の罪は大きいことが明示された。
財政政策は優良可の良だと思う。経済成長の種まきにも金を使ったが、与党議員の地元の要望や政権の人気取りに使った分が目立つからだ。
成長戦略は、優良可の可だ。第1第2の矢は所詮時間稼ぎで、その間に第3の矢が立ち上がらないと長続きしない。「今まで通りで成長」は無いから改革が必要で、改革は必ず副作用を伴い既得権者を痛める。だから第3の矢は既得権との闘いで、歴代内閣はそれに敗れて来た。安倍内閣は歴代内閣より果敢かつ巧妙に努力しているが所詮同じ轍を踏むのだろうか。
Abenomicsの前まで企業は「六重苦」だと言って海外に転進した。それがどう変わったか? (1)円高→◎解消、(2)外国より高い法人税→△小幅努力中←財政難、(3)自由貿易で外国より遅れ→△難渋中←農協、(4)外国より労働規制が厳しい→△難渋中←労組、(5)外国より環境規制が厳しい→X進展なし←産業界、(6)電力料金が高い→XX益々高くなった←原発反対・燃料高。つまり(1)円高以外は全く改善が見られない。六重苦以外では、(7)農協改革→△難渋中、(8)女性活用→○進行中、(9)国家戦略特区→X進まず。結局企業の海外転出見直しや国内回帰は見られない。
一番のリスクは財政問題だ。2014年度見込みでは、歳出96兆円に対し、消費税増税と景気回復のおかげで歳入は増加したが50兆円で、差額は国債などの借金で補っている。国の債務は、2012年度末で普通国債だけで700兆円(2014年度末見込780兆円)、地方債まで含めて1,250兆円に上る。国民1人当たり10百万円だ。家計に例えれば、年収5百万円、年支出9.6百万円、借金(4人家族なら)40百万円が年々数%ずつ増加しているのと同じだ。こんな状態が長続きするはずがない。因みに消費税を1%上げて消費額が不変なら、約2兆円の歳入増となる。あと2%上げてもとても足りない。
与党も野党も票にならぬこの問題に触れない。他国の財政危機は伝えるマスコミも日本の危機は取り上げない。だから国民の多くは知らないか、「政府は大変だなあ」と他人事だと思っている。政府の債務は国民から税金を徴収して返す他は無いという自明の理が知られていない。共産党は反企業反増税で人気を得ている。米国の茶会=Tea Partyは、米政府の支出増はやがて増税になるからと政府支出に猛反対するデモを誘う。日本では、教育であれ福祉であれ「XXは大事だ。政府はもっとXXに資金を」と気軽に言う。一番の障害は「成長はもう沢山、副作用がある位なら今のままでいい」という反変革主義だ。「今のまま」は無いことを知らないのだ。
日本には(1)増税か、(2)歳出減か、(3)経済成長による自然歳入増か、(4)財政破綻か、の選択しかない。(3)以外では日本が貧しくなる。だから「この道しかない!!」のだ。うまく行って欲しいと願うや切。 以上