衆議院の1票の格差問題から、Adams方式導入が決まりそうだ。ただ自民党はそれを嫌がって先延ばししようとしている。なぜ嫌がるのか?
今衆議院は小選挙区で300議席、比例代表方式で180議席、併せて480議席だ。その小選挙区では、まず都道府県単位の議員定数を決め、都道府県内ではその選挙管理委員会が議員定数1名の選挙区に分ける。その都道府県別定数の決め方が問題になっている。現行の決め方は次の通りだ。
(1)まず都道府県に各1名の議席を認める。残りは 300-47=253議席。
(2)253議席を都道府県の人口比例配分にすると少数部が生じるが、その整数部を議員定数とする。少数部を切り捨てたから253議席に達しない。
(3)残りの議席は少数部の大きい順に1議席ずつ配分する。
この現行方式に対して、(1)の1人別枠が投票格差を広げている元凶で違憲状態だと最高裁は指摘し、改善を迫っている。(2)(3)の手続きのことを一般にHamilton方式と呼んでいる。1791年に米財務長官Alexander Hamiltonが提唱した。つまり衆議院小選挙区制の都道府県への定数配分方式は、1人別枠+Hamilton方式である。
Hamilton方式は一見理屈に合っているが、欠陥があることが知られており、段々採用されなくなっている。少数部の大小に依存しているが、少数部は整数部ほどの意味がなく、極言すれば偶然生じた大小関係と言える。例えば全国の議員定数253議席を3%削減するとか、日本の人口が3%減少したとしよう。それで人口比例計算をすると、元々の人口が少ない鳥取県などでは整数部も小さいから、3%減にしても少数部の減少も小さいのに対して、人口が大きい東京都などでは少数部が大きく変化する。このようにあまり意味のない少数部の大小で議員定数を加えると、総定数を削減したら小さい県の少数部が突出して逆に議員定数が増えたり、総人口が減少した時に小さい県の定数が増えたりする不思議な現象が起こり得る。
こういう欠点の無い方式としてAdams方式を含む「除数方式」が各国で用いられている。次のように計算する。
(1)任意の数dを選び除数と呼ぶ。任意とは言っても大体 総人口/総定数の辺りの数とする。
(2)各都道府県の人口をdで割る(除する)。少数部を切り上げるのがAdams方式で、切り捨てるのがJefferson方式=d'Hondt方式である。米議員のJohn Quincy Adamsが1830年に、米大統領Thomas Jeffersonとベルギーの数学者Victor d'Hondtが独立に同じ頃提唱した。その他にも四捨五入するWebster方式とか、平方根計算や調和平均をとる方式とかがある。いずれにせよ割り算で各都道府県の仮定数が決まる。
(3)仮定数を加算してみて総定数になればよいが、ならなければdを加減して(2)の再計算をし、丁度総定数になるまで試行錯誤する。
明らかにAdams方式は小さい県に有利である。0.01でも1に繰り上がるからだ。対してJefferson方式では小さい県が不利で、整数部の大きい県は少数部を切られても僅かである。この2方式の間に色々な方式がある。いずれにせよ差は±1の範囲なのだが、その±1が立候補者には死活問題だからもめる。そもそも選挙方式を議員に決めさせる体制が矛盾している。
Adams方式を次のように説明している資料もある。等価なのだという。二三の数値例で試してみたが確かに同じ結果になる。等価であることを証明したいのだがまだ出来ていない。
(1)まず都道府県に1議席ずつ割り当てる。
(2)各都道府県で 人口/割当議席数 を計算し、比が一番大きい都道府県に1議席加算する。総議員定数が割り当てられるまでこれを繰り返す。
1票の格差問題は小さい県の優遇問題である。1人別枠の他にHamilton方式で1人割り当てがある定数2人の県が7県ある。定数25人の東京で2-3人増減しても格差が10%変わるだけだ。この問題はAdams方式にしても変わらない。Adams方式は現行方式に近いからだ。だから2つの県の合区がない限り格差の改善にはならない。但しAdams方式の試算では大きな都道府県の定数が1人ずつ増え、小さな県では減る。だから自民党が嫌がる。 以上