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うつせみScience
2021年 5月 7日
            反物質の恒星?

 我々の体も地球も、正電荷の原子核と負電荷の電子から成る原子で構成される「物質」だ。性質は同じで電荷の正負が反対の「反物質」が存在する。原子核を構成するQuarkなど素粒子のレベルでも、物質と反物質がある。SFでは物質の彼氏と反物質の彼女が合体してエネルギーになる。

 全ての物質を取り除いた真空にもエネルギーは残り、エネルギーは或る確率で物質と反物質の対に変身し、短時間後に物質と反物質は相殺してエネルギーに戻る。138億年前に膨大な物質と、同量の反物質が出現し、間もなく相殺して大部分はエネルギーに戻ったが、何故か一部の物質が後家になって残り、それが今我々の宇宙や地球や人間になったという。なぜ一部の物質だけが残ったのかについては、世界中の物理学者が研究している。有力な説は、物質Neutrinoと反物質Neutrinoが対称ではないことに原因があるとしている。電荷ゼロのNeutrinoになぜ物質と反物質があるのかは、依然学界の課題であるが、とにかく存在するらしい。中性子がβ崩壊して、陽子+電子+反Neutrinoになるそうだ。

 日本のT2Kプロジェクトがこの分野で有名だ。T2K(Tokai to Kamioka)とは、東海村(T)のJ-PARC加速器で発生・発射した(反)Neutrinoを295km先の飛騨市神岡町(K)のSuperKamiokandeで検出する素粒子実験だ。Neutrinoは質量で3種類あり、それぞれに反Neutrinoがある。飛んで行くうちに3種類の間で移行が起こることを振動=Oscillationという。その振動が物質Neutrinoと反物質Neutrinoで異なることを、T2Kが精密に測定した。

 AMS=Alpha Magnetic Spectrometer=アルファ磁気分光器という実験装置が、ISS=国際宇宙ステーションにある。2013年以降は第2世代のAMS-02だ。宇宙の観測方向から飛んで来る宇宙線を調べている。一番多いのは陽子、つまり水素の原子核と、ヘリウムの原子核だそうだ。このAMSが反物質ヘリウム=Antiheliumの原子核が飛び込んでくるのを観測しているという。物質のヘリウムの原子核は陽子2個と中性子2個で2価の正電荷だが、反物質は反陽子2個と中性子2個または1個だ。これらは宇宙にある反物質から来ているのではないか、暗黒物質に関係があるかという説がある。

 従来人工で作り出す以外に、自然界の宇宙には反物質はほとんど無いとされて来たが、AMS-02が反物質のヘリウム原子核を観測し始めたことで、反物質の恒星=反恒星=Antistar が太陽系の近くにもあるのではないかと思われ始めた。4月26日のScienceNewsは"Stars made of antimatter could lurk(潜む) in the Milky Way"という記事を掲げた。物理学会誌Physical Review D 4月20日号の記事を次のように紹介している。

 2011年に打ち上げられた人工衛星のFermi Gamma-ray Space Telescope=Fermiγ線宇宙望遠鏡で、γ線の観測が続けられている。波長 10pm-10nmの電磁波がX線だが、それよりも短い波長の強烈な電磁波がγ線だ。10年間の観測で特定した宇宙のγ線源 5,800か所の中で、PulsarでもBlack Holeでもなく、物質・反物質の相殺としか考えられないγ線源が14か所あったという。もし反恒星が天の川銀河の平面上に存在するなら、周囲に物質がふんだんにあるから相殺が起こり易く、その場合は恒星40万個に1個の反恒星がある計算になるという。そうではなくて、反恒星がほとんど天の川銀河の平面の外にあるならば、物質を引き込み難いから相殺でγ線を出すとしても弱く、上記14個以外にも無数の気付かない反恒星があって、恒星10個に対して1個の反恒星があるだろうという。

 但し光学的な観測では反恒星も恒星も区別が付かないと予測されており、反恒星の発見は極めて困難だと見られている。だからγ線の強度の時間経過でPulsar(中性子星から成る変光星)を特定し、可視光線や赤外線でBlack Holeを特定して引算するしかないという。

 もし反恒星が存在すれば、初期の宇宙で起こった現象とその後の天文学に、全面書き換えを要求するような大きなインパクトになるという。しかしそれでも反物質は物質に比べて圧倒的に少ないから、なぜ相殺せずに物質が大量に残ったのかは問われなければならないそうだ。

 反恒星は日常生活に関係は無さそうだが、ロマンがあってよい。以上