iPhone・iPad関連のAppleの特許6件に関してAppleがSamsungを侵害提訴したCalifornia州San Joseの地裁が8月24日に、Appleの全面勝訴を申し渡したというニュースが報道された。しかしどのニュースを見聞きしても私は不満がつのるばかりだった。どんな特許をどの程度侵害したのかが全然理解出来なかったからだ。不満が高じて遂に自分で特許を読んでみようという気になった。某外人に尋ねたら幸い6件耳を揃えて送って呉れた(もし読みたい方が居られたらお送りする)。但し(1)特許に関する感想と、(2)Sharpを初めとする日本の家電メーカの業績低下について意見を呉れという宿題付きだ。すごい。やっぱり彼は読んでいたのだ。こうなったらしっかり読み込んで彼に反応しないと私の信用に関わる。
久し振りにUSPを読み込んでみて判った。(1)Appleは、相当の金と労力を注ぎ込んで立派な特許出願をしている。Macで市場シェアを取れなかった反省もあり、Macの時代と違って台湾・中国で製造しなければならぬ時代だから当然だ。(2)米国は日本と違って意匠登録も特許でやる。6件のうち3件は意匠だから一目瞭然だ。3件の機能特許が滅法難しい。そもそも米国特許は具体的に詳細に書くから日本特許より分厚くて解読に苦労する。加えて出来るだけ広く取ろうと抽象化するからなお難しい。(3)実施例の説明は広いが請求範囲は相当削られている。出願/審査過程で落としたにに違いない。それが特許を判り難くしている。最初出した特許が削られて、別の出願で失地回復の努力をしている。(4)特許には或る程度慣れているはずの私が苦労した位だから報道関係者が理解できるはずが無い。だからいいかげんな報道になるのは極く自然の成り行きだと納得した。
意匠特許3件だが、ほぼiPhoneの基本設計が固まって、US D593,087Sで形状を、US D604,305SでGUIをそれぞれ2007年夏に出願し、最終的な形状をUS D618,677Sで2008/11に出願している。あらゆる図を掲載し「このような意匠」という特許請求だ。SamungはiPhoneの丸みを帯びた長方形の意匠を真似たと責められたが、それは無理筋だと私は思う。Samsungは「iPhone以前にSonyも同型の携帯を出していた」と抗弁したという。しかしリセットボタンが1つだけ表面にある意匠や、必然性が無いのに同じような位置にあるボタンや、アプリが2次元に並んだ画面設計は真似したと言われても仕方なかろう。その目で東芝のRegza Tabletを見ると、表面にボタンは1つもなく、アプリアイコンはかたまっている。
難物の3件だが、US 7,469,381は実施例では Scrolling, Translation(「翻訳」の意味しか知らなかったが、ここでは「移動」), Scaling (拡大縮小), Rotationが記載されており、野心的な特許出願だったことが判る。しかし請求範囲は小さくなり、強力特許ではなくなった。つまり、指などでDocumentを画面上で移動させ、Documentの端まで移動した時に、一度灰色等で空白領域を示し、手を離せばDocumentが画面の端まで戻るという工夫のMethod, GUI, Device, Program productの特許だ。,
US7,844,915 は、指などでScroll、移動のGestureなどの実質的にはOSのインターフェースAPIの特許だ。実施例では bounce, rubberbanding, zoom in/out, start animationなどのAPIも提示しているが、請求範囲にはScroll、Translation, Rubberbandingしか無い。メーカとしては「APIはウチじゃないよ、Googleに言ってよ」と言いたくなるだろうが、そう言わせないために、そういうAPIを使うMethod、 Programを入れるMemory、Apparatusという請求範囲になっている。これは逃げ難い特許だ。Googleとの代理戦争と言われる所以である。
US 7,864,163 は、画面上のDocumentをTapなりGestureなりで拡大縮小し、Swipeなどで頁を入れ替えるなどして、Documentを限られた画面上に表示するMethodの特許である。これも逃げ難い特許であろう。
日本では8月31日に東京地裁がSamsung勝訴の判決を出した。これは上記6件の特許とは無関係で、同期化の特許だという。iPhoneで入力した予定表をiPadでも見られるなどの機能だ。他特許の裁判は進行中だという。
意匠特許は逃げられても、他はライセンスする以外に無さそうだ。以上