朝日新聞が大嫌いな癖に達観して長年の購読を続けている私は「朝日ぎらい」という本を朝日新聞出版が出したことを知って興味を持った。
朝日ぎらい 橘 玲 朝日新書 2018/6
「作家」と著者紹介欄にあったが、内容から見て政治社会学者だ。人々が或る政治思想を持つに至る条件を分析し、文献を精査している。「だから俺は朝日新聞が嫌いなのだ」という本ではなく、冒頭に「本書は朝日新聞を批判したり擁護したりするものではない。」「文筆家の仕事は、他人が言わない主張を紹介することだ。」「朝日新聞に代表される日本のリベラリズム(戦後民主主義)が、世界から乖離している。」とあった。
今世界では必然的に@安全保障の強化と、A経済の国際化・リベラル化が進んでいる。安倍政権も、野党と朝日新聞などのメディアの猛反対の中で、安保法制と自衛隊の海外派遣・憲法改正・特別秘密保護・共謀罪などを進めている。右翼的政策のように見えて、実は世界視点では左右に拘わらず必要な施策だという。一方で安倍政権は、働き方改革・裁量労働制・同一労働同一賃金・女性活躍・高齢者活用・外人導入・教育無償化・など、リベラルな左翼的政策も推進する。これも実はやらないと日本経済がもたない必須政策だ。これらほとんど全てに反対して来たのが共産党などリベラル左翼野党だ。支持母体の労組が高齢化し、労働慣行の変更に後ろ向きなためだ。2017/10の中央公論に発表された読売新聞と早稲田の共同調査によれば、70歳以上の認識する政党のリベラル度は、共産・民進・公明・維新・自民の順で常識的だが、18-29歳では、維新・自民・民進・共産・公明の順と逆転しているという。だから18-29歳の男性の自民党支持率が他世代や女性の数字よりも格段に高いのだと著者は分析する。
著者も「朝日ぎらい」の1人であることを、あとがきの最後まで行って知った。但しその理由は、一般的な「朝日ぎらい」とは異なり、言行不一致の欺瞞の故だ。朝日新聞と安倍首相は相互に天敵の関係のようだ。その安倍首相が「同一労働同一賃金」を進める。リベラルを標榜する朝日新聞は当然自社内でそれを進め、安倍首相を賛美するはずなのに、自社内には正規/非正規を抱えつつ安倍政策を攻撃する。同様に、親会社/子会社の身分差、先輩/後輩の年齢差別、定年制、男女の労働差、裁量労働制、など数点にわたって朝日新聞の自己矛盾を突いている。
筆者と違って一般的な「朝日嫌い」は、日本を貶める朝日新聞を右派の立場から嫌う所から来ているという。最も先鋭的なのがネット右翼=ネトウヨで、実態は定職無しか非正規の低賃金労働者が、社会への憎悪を中国・韓国・在日韓国人・朝日新聞に向けているのだという。ネトウヨは更に、弱者利権つまり弱者が受けている利権を攻撃する。具体例は、少年保護・生活保護・LGBT・沖縄・障碍者など。その背景には、「自分は生粋の日本人である」ことしか誇れなくなった人々が、容易にはなれない日本人というIdentityを守るべく国粋的な思想や行動に出るのだと。日米欧で同様な動きがあり、日本では嫌中・嫌韓、米国では白人至上主義、欧州では反移民で、Trump大統領誕生やBrexitに表れているとする。
2011年に豪州の心理学者が調査結果を発表したという。12歳の375人の生徒の学力検査と、5年後17歳になった同じ生徒の心理テストを比べた。その結果は衝撃的だった。12歳で数学と言語の能力が低かった生徒は、17歳では権威と宗教を尊重し、新規を警戒し保守に整合する生徒になった。逆に12歳で知能の高かった生徒は、17歳で新規を恐れず、現状変更に指向するリベラルに整合したという。加えて、知能レベルは或る程度遺伝するので、先天的にリベラルか保守かは或る程度決まるという。
米国では、NYC, Boston, Washington DC, LA, SF, Seattleには知能が集まるからリベラルで、必ず民主党が勝つ。逆にRust Belt=赤錆地帯は保守的で共和党が勝つ。世界は知識社会となり、知能の要求レベルが上がった。知能を集めるには身分・国籍・性別などの制約を排除するので、必然的にリベラルになる。一方では知能の要求レベルに達しない人は落ちこぼれ、上記のIdentity主義者となり、Populistの支持者となるという。以上