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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2004年 1月12日
             足摺岬

 正月は四国を600kmドライブした。WebでJAL(実はJAS)が募集したパック旅行を見て、ウン2泊3日で高知、足摺岬、四万十川、宇和島、道後・松山と色々な所を見せてくれるならいいなあ、と思ったのが大間違いで、飛行機と宿とレンタカーは確保するから、3日でこれだけドライブしなさいという強行軍だった。しかし足摺岬に初めて行けたのは収穫だった。

 1月2日昼前に高知に着陸し、レンタカーで市内と県西南の海岸を観光し、四万十川を渡った頃には真っ暗になっていた。足摺岬への道は、土佐清水港をかすめてから驚いたことにドンドン山に上って行った。急カーブの多い真っ暗な山道を車と腕の性能一杯の速度で急ぐのは緊張を要した。後で地図を見ると足摺岬は山がちな岬で、これが標高400mまで登る唯一の2車線道路の足摺スカイラインだった。疲れて到着した岬先端に近いホテルでは、水平線から昇る日の出が窓から見えますよと言われた。

 それはワイフに任せて、私は1月3日早朝の空が白む頃にカメラを持って出掛けた。もう日の出を見る観光客がちらほら歩いていて、それを当てにした土産物店が開いていた。金剛福寺の門前には裸電球の露店が並んでいる。空海開創のこの寺は、補陀落(ふだらく)渡海と言って南方海上にある観音の浄土を目指して船出し再び戻らない残酷な信仰の基地だったという。公園の主歩道を行くと展望台があり、十人ほどの観光客が日の出を待っていた。隣の岩場に立つ足摺灯台がまだピカ・ピカと煌いている。太陽が水平線から出たとしてもあと20分、水平線近くに雲があるようだから太陽が顔を出すのは30分以上あとだと計算して、風通しが良くて寒い展望台でジッと待つよりは周辺を歩き回り写真を撮ることにした。

 伊豆城ケ崎海岸の溶岩台地に生い茂る植生と似た感じの密生林を縫うように遊歩道がある。東側の遊歩道を行くと「ビロウ自生地」と書いてあった。ビロウって何だっけとキョロキョロしながら行く。色々な植物の名が幹にくくり付けられているがビロウという標識は無い。そうだ、このシュロのような葉のヤシの一種が確かビロウと言ったっけ。断崖に多数自生していた。さっきは通過した金剛福寺に引き返し、記念に絵馬を収集しようとしたら「置いてません」と言われた。残念。

 足摺灯台まで行ってみた。もう明かりは消えていた。おお、丁度太陽が雲から出て来るところだ。見る見る真っ赤な光が点から半円に、真円になっていく。幸い霞んでいるので凝視できる明るさだ。何枚か撮影して戻る道で10cm厚ほどのコンクリート塀に器用によじ上ってズームレンズを構えている人が居た。振り返ってその想像の構図に感心し「成る程考えましたねえ」と声を掛け、私もへっぴり腰で1mほどの塀の上に立ち上がって撮影した。足摺灯台とビロウの葉を近景に太陽と朝焼けが美しかった。

 遊歩道を西に行くと白山洞門という海蝕アーチがあるというので遊歩道を急いだ。急な階段を下ると鳥居と鎖が見えた。鎖をよじ登ると海に突き出た岩山の頂上に白山神社があることが判ったが、残念ながら時間切れで割愛だ。更に下って海岸に出ると、目の前に高さ十数米の見事な洞門があり、波が砕け遥かに水平線が見えた。丁度白山神社の真下だ。

 早朝の下見を基に、朝食後はワイフを足摺灯台と金剛福寺に案内した。浜まで降りなくても白山洞門が見えるスポットも発見した。ホテルに戻って日程を相談すると、ワイフはガイドブックを見て珊瑚博物館を見たいという。四万十川の船遊びの指定時間に間に合うためには急がなければならない。足摺スカイラインを戻り、土佐清水市の町並みから更に12kmほど西行して竜串という町に珊瑚博物館はあった。土佐珊瑚の本場だけあって大きな樹形の珊瑚や、名古屋城を珊瑚で作った2mほどの模型や、色違いの珊瑚片を貼り付けて描いた珊瑚絵など息を呑むものが多かった。売店を覗くと「血赤」と呼ばれる土佐特有の真っ赤な珊瑚の装身具が東京よりかなり安く並んでいた。まだ採れるのかと聞くと、血赤は土佐でしか採れないが、もう小さいのしか上がらないという。そう聞くと欲しくなって夫婦仲良く一品ずつ記念に購入した。足摺岬は私が育った山口県光市の一部の海岸にも似た、初めてでも懐かしい素晴らしい場所だった。    以上