9月後半にIceland観光に出掛けた。我々の目的は(1)オーロラを見たい。(2)未訪問の国。(3)イスラム・テロから遠そう。9月にANAが2度成田発臨時直行便を出し、それをJTBが買い取って様々なツアを売り出した。負けじとJALは関空発の臨時直行便を出した。航空会社・旅行社の狙いは、夏の繁忙期が過ぎてHotel代を安くできるし、夏と違って目玉の一つとしてオーロラを謳えるし、冬と違ってそれほど寒くなく観光出来るからだ。
オーロラは通常は北極圏に冬に訪れ、零下十数度の中で見るものらしい。しかし寒さが極端に嫌いなワイフと、オーロラを見たい私との妥協点が9月下旬のIcelandだった。Icekandは南部でも北緯65度とか充分北ではあるが、それほど寒くなくオーロラが見られる。(1)磁極がIcelandに有利な方向に北極からずれている。(2)太平洋の黒潮に相当するMexico暖流があり、緯度の割には温かい。実際オーロラを見るために夜明け前に屋外の吹き曝しに独りで居た時の気温はプラス6度だった。しかしこの季節は晴れの日が少なく、オーロラは容易には見られない。JTBはオーロラを目玉にしながらオーロラ・ツアとは一線を画し、昼間の観光を中心にしてオーロラはボーナス扱いだ。それでもツアコンダクタは責任を感じて、深夜・早朝に起きてオーロラが出たら皆を叩き起こす体制を採った。ホテルにはMorning Callの他にAurora Callがあって、電話で起こしてくれる。
実際天候に恵まれなかった。Icelandには7泊したが、強い雨が降らなかった日は1日も無かった。この季節9;30pm頃空が暗くなり、5;30am頃夜が白む。この間に北の空に星が見える瞬間を期待して辛抱強く毎晩及び毎早朝に計2時間以上空を見上げたが、そういう夜・朝は3回しか無かった。
もう一つオーロラに必要なのは太陽風だ。太陽が吐き出す水素などのプラスイオンだ。地球の磁界に捕らえられて南北の磁極に降り注ぎ、窒素と衝突して青、酸素と衝突して赤の光を発する。太陽風が強烈な日には磁気嵐が起きて短波通信などが途絶える。そんな時には稀に北海道でもParisでもオーロラが見られる。太陽風が弱いとオーロラは地球の両磁極周辺に限られる。上記3回のチャンスのうち2回は太陽風が弱く不発だった。
つまりAurora Callが掛ったのは最初の1回だけだった。9時過ぎには大雨だったから諦めて床についたが10時頃電話が掛かってきた。急いで防寒着を着て外に出たが、既に空にオーロラは無かった。ホテル客が30人ほど出て来ていたから、30人に電話を掛ける時間遅れが恨めしかった。とりあえず露出を変えて数枚夜空を撮影して最適露出を決め再び現れることを期待した。この時の試写写真を翌日PCで見て驚いたのだが、目には見えなかったがレンズは緑光を捉えていた。以降雨の合間に3脚を据えて真夜中過ぎまで夜空を眺めたが雲が増えてきて絶望的に見えた。諦めて3脚を畳み始めたところ、外人客が空を指さして声を上げたので、急いで数枚の写真を撮った。厚い雲の向こうに淡い白い光源があるように見え、数秒で消えた。後でPCで見るとこれも緑光だった。真夜中の2時間の収穫はこれだけだった。この時のホテルは山の南麓にあり、仰角15度以上の空しか見えなかった。地平線上は大抵雲があって見通せないが、せめて仰角5度は欲しかった。気まぐれで大きく広がったオーロラの片鱗が恐らく見えたのだと思う。見通しが良ければもっと頻繁に、かつ目でも緑光が見えたろう。
後で悔しい思いをした。靴も履かずに急いで飛び出した我々グループの1人が、コンパクトカメラの自動モードで手持ちで山に向けて数枚撮影したのが、見事な緑光を捉えていた。私はWebで予習して、Canon KissにSigmaの30mm F1.4のレンズを装着し、携帯用の本格的な3脚を据えて、彼の数倍以上は張り込んだのに、彼の写真には敵わなかった。やっと分かった。私がWebで見ていたのは本格的なオーロラツアで全天を覆うオーロラを撮影するノウハウだった。一瞬南に流れて来たオーロラの片鱗を捉えるには、コンパクトカメラを鷲掴みにして靴も履かずに飛び出す方が理に適っていた。悔し紛れに言うのだが、私のカメラもすごかった。真っ暗なのに、露出によっては山の紅葉が青空に映える光景を捉えていた。
オーロラの不振は、彼岸の墓参をさぼった罰だという説があった。以上