I. 或る優良起業会社の売上が特定月に集中した結果、安全のために短期運転資金を銀行から借りたいと社長が言った。「私有財産を担保に要求されるでしょ?」と言ったら、「要求されるけど私有財産は無いと開き直る」との話だったので思わず笑ってしまった。無いほど強いものはない。優良企業だから短期なら無担保で貸してくれるだろうと思ったから笑ったが、笑い事では済まない企業も昨今は多いはずだ。米国の商業銀行は、売掛金など会社の資産は担保にとるが私有財産を担保にすることはあり得ない。Venture Capitalは投資先会社の2-3割は出資金が戻らないことを織り込んでいる。つまり金融業はリスクを負うことで利益を出している。
II. 株の損切りで私の邦銀口座の残高が一時的に増えたのを見て銀行から電話が掛かってきた。多少とも利子の付く運用を勧められたが、コンマ以下で利子が多い少ないと言ってもタンス預金と本質的には変わらないから嫌だと言ったら、外貨預金を勧められた。邦銀で外貨預金をするくらいなら外国で預金するなり日本のCitibankの24時間全世界サービスの方がマシなので断ったが、電話セールスが嫌いな私の応答が段々ツッケンドウになってしまい、何か当行に落ち度がありましたでしょうかと後日熨斗のついたフキンを持った自宅訪問を受けてしまった。
申し訳ないことをした。その銀行にも担当者にも何の恨みもない。むしろ個々人の努力には敬意を持つ。10年前に比べれば最近の窓口対応は見違えるほど良くなった。しかし担当者のサービス精神とは違う次元で邦銀はタンス預金以上の魅力を失っている。ほぼゼロの預金金利と貸出金利の差額で不良債権を償却し債権放棄している。冷静に考えれば全国規模で邦銀が国民を収奪してゼネコンやスーパにサ−ビスしていることになる。収奪されるのが嫌だったら邦銀のお世話にならず外国に逃避する他ない。預金金利を邦銀に合わせて業界秩序を保っている日本Citibankは儲かってしょうがないんじゃないかと思ったら、案の定外国に子会社の新銀行を創設したようだ。日本で積み上がった利益を有効活用したに違いない。
III. 不良債権に関する竹中大臣の考え方を報道から推察すると、抵抗勢力に遭って頓挫しているものの、本当は大手銀行を国有化(に近い形に)して不良債権を一挙に処理させたいようだ。それが私には理解できない。まず国営企業がうまく経営できるはずがない。 不良債権は私が慣れ親しんだ製造業で言えば不良在庫のようなものだ。不良在庫は勿論無い方がよいし早く処理すべきだ。しかし「不良在庫を片付ければ業績は良くなるか?」と問うてYesの場合とNoの場合とがあるだろう。Yesは不良在庫以外の「本業」が順調な場合である。本業の新勘定と不良在庫を含む旧勘定に二分して新勘定に注力する手法がしばしば採用される。銀行だって同じことだ。しかし邦銀の本業が順調とはとても見えない。貸出先が無くて余った資金が国債に流れている。実は貸出先が無いはずはない。優良大企業は直接金融に頼り優良新企業には担保がないから「邦銀の従来の経営態様では貸せない」だけであって、消費者金融は隆盛を極め、担保がない優良企業はいっぱいある。本業の経営態様を変革しないで不良債権だけ処理しても、銀行も国家経済も良くなるはずがない。
不良債権を急いで処理して銀行経営が改善し国家経済に好影響を及ぼす度合を非科学的感覚的に30点とすれば、倒産・失業・デフレなどの悪影響は50点もあって、差し引きマイナスだと思える。不良債権処理を無理に急がず、当面新旧勘定で経営することにしても、あまり変わらぬ25点ほどの好影響が期待でき、悪影響は10点ほどに止まろう。
邦銀の現状を考えれば、残り70-75点は収益改善施策でなければなるまい。コスト削減や顧客サービス精神は本質ではない。邦銀は1990年までに国家経済に多大な貢献をしたが、極端に言えば邦銀はその役目を終えた。COBOL受注ソフト会社や下請金属切削会社が役目を終えたのと同様に。全く発想を異にするリーダが文化革命を起こして邦銀の幾つかを自ら変身させるか、外銀に吸収されてゴーン流の革命を体験するかしないと、将来は真に危うい、不良債権どころではない、と私には思えるのだが。 以上