Boeing 787 DreamlinerのLIB=Lithium Ion電池の事故対策を米FAAは承認し試験飛行を許可したと3月12日に発表した。ANAが戦略的に最初のユーザになることを選択して今までに$270M(M=百万)の機体17機を導入した。対抗してJALも積極的に購入し、7機を保有している。燃料費が2割方安くつき、中継ハブ空港にジャンボを飛ばす代わりにノンストップで直接目的地に飛ばす用途に都合がよいサイズが期待されていた機種だ。
787は日本のGSユアサ社製LIBを2組積んでいる。前方の1組が主電池で、後方が切替用の補助電池だ。電池1個は3.6〜3.7Vで、8個直列にして約30Vが2組ある訳だ。1月7日にJAL機がBoston空港に到着し、乗客を降ろし終わって機内を点検中に補助電池が煙を出した。直後の1月16日にANA機羽田行きが山口宇部空港を離陸して間もなく、主電池の電圧降下と煙検出があり、高松空港に緊急着陸した。共に充電中だったので、過充電かとFlight Recorderを調べると、上限32Vに対して31V前後で安定しており、過充電は否定された。Boeing社長の本日の発表では、依然原因不明だが、80項目の原因を想定し全てに対応出来る対策を講じたという。LIBの個別電池の間に絶縁体を置いて一個の発熱が隣に伝わらぬようにし、充電器の最大電圧を32Vよりも下げて充電ペースを下げ、全体を無酸素容器に入れて発火を防止し、万一発煙しても機外に出すなどの対策だという。
電気屋として感じるものがある。8個直列で限度32Vなら1個4Vだ。但し電池8個が皆同等であればだ。ANAによれば、2012年5月から12月までに10個の電池を交換し、そのうち5個は電圧不足だったそうだ。JALは個数を明らかにしていないが、何個か交換したことは認めている。つまり電池8個が同等とは仮定出来ず、一部が内部ショートまたは何らかの劣化で正規の電圧が出なくなったということだ。1個だけがヘタって電圧が降下した状態で直列で充電するとどうなるか? 直列電圧は本来の値より低いから、充電器は電池が空になっていると思い頑張って充電する。
ヘタった1個の充電中の電圧が例えば2.3Vだったとすると、正常な7個に掛る電圧が限度を超える4.1Vであっても全体では 2.3 + 4.1 x 7 = 31V と正常な充電電圧に見える。しかし実態は8個とも正常状態よりも充電電流は大きく充電ペースは速過ぎて発熱が激しくなる。そうでなくても、個々の電池の充電容量にバラツキが出来ただけで、一部は過充電、一部は未充電という事態が起こる。そうならぬように、電池の個々の電圧は定期的に検査するのだろうが、もし急速に衰える電池があると上記のような状態は容易に起こり得ると電気屋としての私は思うのだ。
LIBはLithium Ionの電離電圧が高いから3.6〜3.7Vと他の電池より高い電圧、従って大電力=ワットが取れる。質量の割に電力容量が大きいから、携帯電話などは全てLIBになったし、Priusですら機種によってはLIBを使っている。しかしLithium Ionは水と激しく反応するから水溶性の電解液は使えない。Ionを溶解するエチレン系有機溶剤を使うから高熱で発火する。2006年にNotebookに搭載したSony製LIBが発火して、Lenovo/IBM, Dell, Appleの何百万台のPCが回収された。この原因は、微小な混入金属片や経年変化で発達したWhiskerが電池内でショートを起こしたことだった。CessnaはBusiness JetのCJ4でLIBを使ったが、5%まで低下したLIBを空港で充電中に発火した事故で、787の処女飛行直前に使用を止めた。
陰極はGraphiteなどの炭素系だが、陽極は様々なLithium化合物が用いられる。Cobalt酸Lithiumを使えば最も電力容量が稼げるが、最も発熱し易く熱暴走し易いことが知られている。携帯電話などでは冷却効率が良いからこれで良いのだが、自動車用などでは図体が大きく冷却効率が悪いから、若干電力容量は劣るが Mangan酸Lithiumが使われる。Priusは噂ではMangan酸・Nickel酸Lithiumだという。ところが787はCobalt酸Lithiumで強行し、しかも8個の電池を一体化して極めて冷却効率が悪い。LIBの怖さを知らないシステム技術者が論理的に設計したとしか思えない。
Boeingの対策は如何にも米国流だが、報道では電池のバラツキと冷却に注目したとは読めない。私なら各電池に電圧・温度センサを付ける。以上