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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2009年11月14日
          Berlinの壁と東西格差

 1961年建設以来西Berlinを取り囲んでいたBerlinの壁が、1989年11月9日に崩壊して20周年となり、様々な催しが行われてた。Berlinの壁崩壊に連動して東独西独国境が開放され、西独による東独合併に至った。更には鉄のカーテンが消滅し東欧が自由化された。Berlinの壁を若者がツルハシで壊す映像は、これら大変革の象徴として世界の人々に記憶された。

 今年9月にLas VegasからBryce Canyonに観光に行ったマイクロバスで独人女性数名のグループと乗り合わせた。壁や国境があった時代を記憶している年齢ではなかったが「今でも東独西独間には壁があって、Mauer im Kopf=頭の中の壁と言うのよ」と教えてくれた。そういう話を時々聞く度に、同じ民族、言語、地域なのに20年も経ってなぜまだ一緒になれないのか不思議に思っていた。東独人をOssi(←Ost=East)、西独人をWessi(ヴェッスィ←West)と互いに若干の蔑視を込めて呼ぶらしい。

 独の東西統合は世界史に滅多に見られない快挙だと思うが、東独では共産党時代を懐かしむオスタルギー=Ostalgie=Ost+Nostalgieという言葉が生まれ、Ossiの12%、Wessiの25%は東西統合が無ければよかったと考え、25歳以下のOssiの40%が「自分は真の独国民ではない」と感じ、Wessiの多くは東独支援に使われる連帯税=Solidaritatsabgabe=Solidarity Taxが重荷と感じているという。2019年まで有効な法律によって法人税(11%。低い!!)や個人所得税(0-15-42%)に5.5%の上乗せがあるそうだ。

 1990年9月に初めてBerlinを訪れた時、いつものように早朝にホテルを抜け出して東西Berlinの境界の象徴だったBrandenburg門まで行ってみると、二重の壁の西側はすっかり取り払われていた。東側は所々壊されていたが全体的にはまだ10ヶ月前までの威厳を保っていた。早朝だから誰も居ない。「越えて行ってもいいんだよな」と反芻し自分に言い聞かせながら恐る恐る壊れた壁を越えて東側に足を踏み入れた。日中皆と一緒に近くの壁を見に来たら5マルクでノミとハンマを貸してくれる人が居て、頑丈なコンクリートの壁を懸命に一部欠いてみた。世界平和に貢献したような錯覚に捉われた。この時参加した会議で、東独出身の工学博士の教授が「我々は何でも出来る」と見得を切ったのを、西独出身の企業家が「出来る個人的能力と経済的能力は別だ」とたしなめたのが印象的だった。

 2004年にワイフと二人でBerlinの自由時間を楽しんだ時には、壁は意図して残した一部以外はすっかり取り除かれていて、Brandenburg門は美しい観光スポットになっていた。やや怪しげな壁のかけらと称するペンキ面のあるコンクリート片が沢山露店に出ていた。土産物店には壁の一片を含む小綺麗な置物があった。記念とお土産に幾つかを買って帰った。

 壁崩壊で共産党独裁政権に代わって新しく設立された東独政府は、共産政権が廃止した5州を復活し、1990年に西独連邦への参加を決めた。西独政府は東独マルクを1対1で西独マルクと交換した。東独国民の資産を優遇する効果はあったが、東独の賃金水準が高くなり西独と競争出来なくなって国営企業がバタバタと倒れ、失業者が町に溢れた。独政府は州への補助金、企業補助金、インフラ整備などに今までに130兆円を注ぎ込み、今でも上記連帯税何兆円かを毎年投入しているが、なかなか格差が縮まらないらしい。統合直後の一時期は改善が顕著だったが、中欧・東欧諸国が次々に西側市場に参入してきて賃金が安いため、西側の投資が東独を跳び越してしまったらしい。東独の人口比GDPは西独の7割だという。

 Webを見ると、OssiはWessiを傲慢だと評している。逆にWessiはOssiを、閉鎖的、怠惰、悲観的、文句ばかり言う、と持て余し気味だ。東独は未だに失業率が高く西独の2倍の11%、投資が低調で、若者が出て行くために統合以降人口が12%減少した。特に若い女性が多く出て行くために、結婚適齢年齢層の男女比が10対9ほどにもなっているという。

 分かった気がしてきた。産業が育たないのだ。だから失業が多く賃金が抑制され、金回りが悪く、若者が出て行く。日本の東北地方が昔そうだった。今でも国交省が北海道沖縄開発局を置いて特別な支援をしているが、その格差をもっと大きく考えれば東独の現状が推察できるようだ。 以上