昨年3月に76歳で亡くなった Stephen Hawking教授の遺作を読んだ。
Brief Answers to the Big Questions,
Stephen Hawing, John Murray, 2018/10
ビッグ・クエスチョン NHK出版 2019/3
出版準備中に亡くなったが、生涯に書き溜めた原稿を出版したという。
教授の高校時代は、優秀な生徒が集まる高校で、成績は級の半分以上ではなかったが、あだ名はEinsteinだったと。教授の生涯は、Einsteinの相対性理論に量子理論を取り込む研究で、Einsteinと並び称された。
以下の10問に答える本だ。私には1と2が特に面白かった。
1.Is there a God ? 歴史的には、神の御業とされた領域が次々に科学で説明できるようになり、今や宇宙開闢を例外として、開闢以降は神の御業とするよりも明快に科学で説明できるようになった。宇宙開闢の解明も進んでおり、遠からず科学的に説明できるとしている。ただ私見では、相対性理論と量子理論による説明よりも、神の御業と信じる方が一般人には分かり易いから、宇宙は神が作ったという信仰は無くなるまい。
2.How did it all begin ? (初めて知ったのだが)Black Hole=BHと宇宙開闢は同じ数学モデルで扱えるそうだ。宇宙は物質とエネルギーと空間から成るが、質量とエネルギーは裏表だとEinsteinが看破したから、エネルギーと空間で出来ている。「無」からBHのような宇宙が生まれ、プラスのエネルギーが物質になったので、空間はマイナスのエネルギーで満ちており、それが宇宙を加速拡大させているという。相対性理論では、BHに引き込まれる時計は段々動きが遅くなり、BHに取り込まれると止まる、つまりBH内部では時間は無くなる。同様に、宇宙開闢で時間が始まった。開闢の前を問うのは南極の南を問うのと同様に無意味だと言う。
3.Is there other intelligent life in the universe ?
地球上でどのように生物が生まれ、進化して人間が出来たかを振り返り、知性的生物が生まれることが如何に稀であるかを論じている。仮に生まれても、2千万年に1回は小天体が地球に衝突し高等生物は絶滅するという。しかし宇宙には無数の星と地球的な惑星があるから、可能性はあるとする。例え宇宙の知的生物から通信があっても返事するか否かは慎重にしないと、Columbusと原住民の関係が再現され兼ねないと警告している。
4.Can we predict the future ?
Newton力学に基づきLaplaceが、古典力学の世界では現在の物質の位置と速度が判れば将来は一義的に決まるとした。しかし量子力学が出現し、微小な物質は波動関数に従い、位置と速度の積は予測できるが、個々には不確定性原理があるとした。しかしそれすらもBHの中では通用しないという。例え粒子の将来が予測できても、人間社会の将来は別だと思うが。
5.What is inside a black hole ?
BHの中心にはSingularity=特異点があり、そこでは相対性理論も量子理論も成り立たず、時間も座標も無い。
6.Is time travel possible ?
一般相対性理論が正しく、エネルギー密度がプラスなら、タイムトラベルは不可能であることを私は証明した。
7.Will we survive on Earth ?
最大リスクは小天体の衝突だが、66M年前以降ない。次のリスクは気候変動が制御不能になること。摂氏250度まで上がるリスクがある。
8.Should we colonize space ?
次の百年で太陽系のどこにでも行けるようになる。他の星に行けるのは五百年後。しかしStar TrekのWarpは不可能だから、移動時間が掛る。
9.Will artificial intelligence outsmart us ?
AIを含む技術の進歩と、それを使いこなす人間の知恵との競争だ。
10.How do we shape the future ?
核融合ができれば、無尽蔵なエネルギーを使える。人類は地球外に居場所を作る。そのためには若者が好奇心を持って探求することが必要。以上