4月19日の「うつせみ」で「Black Holeの画像」をお届けし、初めてBlack Hole=BHの画像が国際Projectから発表されたことを取り上げた。その後6月21日に、その国際プロジェクトの日本代表である本間希樹教授の講演を聞く機会があった。長年奥州市水沢の国立天文台水沢緯度観測所の教授で、今は水沢VLBI観測所兼東大の教授だ。VLBI=Very Long Baseline Interferometry=超長基線電波干渉計とは、遠隔の複数の観測所で原子時計の正確な時刻と共に記録した電波(時計が精密になった最近では可視光すら)の観測データをオフラインで集め、Supercomputerで解析して遠隔観測所同志を直径とする巨大なパラボラによる高分解能の観測をシミュレーションする天文学の手法だ。日頃はこの奥州市、薩摩川内市、小笠原村、石垣市のそれぞれ20mのパラボラをVLBI法で一体運用している。
今回のBHの画像も正にこのVLBI技術だった。時間によっては目標のBHを同時に観測できるHawaii, Arizona, Mexico, Spain, Chileの電波望遠鏡を一体運用したEHT=Event Horizon Telescope計画で、地球サイズのパラボラの電波望遠鏡のような結果を得た。Event Horizonとは、それを越えてBHに近付くと電磁波すらも引き込まれて出て来られないという球面の境界線のことで、高分解能の観測をすれば、Event Horizonから内側は黒い円形に見えるはずという命名のProjectである。即ち視力検査で1.0のサイズのCの字を300万分の1に縮小したものが見える視力で、月面のテニスボールを見たことに相当するという。日本は上記5か所と同時観測できる位置には無かったが、世界各地で観測に参加し、また大きな貢献は水沢のCrayのSupercomputer「アテルイU」による画像解析だった。
BHは、全地球の質量を直径2cmの球に押し込めたような質量密度だそうだ。太陽だと6kmだという。そんなに縮めると、原子核と電子の間のスカスカの空間は勿論許されない。今回発表のBHは、55百万光年先の銀河M87の中心にあるもので、太陽の質量の65億倍の巨大なものだ。その巨大な質量の万有引力で周囲の物質を引き込む。物質は数十億度の高温のプラズマになり、BHの周りを円盤状に光速に近い高速で回りながら内側から引き込まれていく。プラズマの荷電粒子が流路を曲げられると電磁波=光子が生じる。その光子は一部地球に届く。光子がBHの周りを球状に包む光子球ができる。その光子の一部はBHで急角度で曲げられ加速されて地球方向に飛んで来る。これら電磁波には様々な周波数が含まれていて、BH周辺は可視光望遠鏡でも明るい。しかし可視光や波長の短い電磁波は大気で拡散吸収され易いから分解能の高い画像を得るためには不適当だ。Projectでは波長1.3mmのミリ波で観測し、発表されたドーナツ型の画像を得た。
観測データのベクトルIを係数行列に乗算した結果が画像データのベクトルVになる。係数行列次第ではどんな画像でも作れてしまうが、この点はゼロ=黒のはずとか多数の制約条件式が加わる。日本ではSupercomputerアテルイUで5万回試行して係数を決めたという。世界では4つの研究グループが独立に同様の画像化を進め、幸い類似の結果が出て来たので、科学に似合わない政治決着で、平均をとって発表画像を作ったという。
回転円盤の回転軸から少し傾いた方向から見たことになり、回転円盤は垂直に見れば希薄なのでゼロ=黒として処理したそうだ。傾いた分だけ円盤の半分では地球方向への速度が増し、ド−ナツの半分は明るい。
Einsteinの宇宙方程式の1つの解としてBHは、理論的に存在が確実視されて来た。BHが無ければ説明できない観測結果もあったが、何しろ視角が小さいのでBHを画像で捉えることは今迄誰もできなかったというから、今回の画像は貴重だ。確かに銀河の中心には大きなBH(の周辺を含めたEvent Horizon)が存在することが視角的に実証された。
世界13機関の200名がProjectに参加したという。学会発表論文を見たが、最初の数頁は著者名の列挙で埋まっていた。うち日本人は、水沢の14名に海外での観測に参加した人を含めて22名だったそうだ。
我が天の川銀河の中心のBHは、今回のBHの2千分の1の大きさだが、距離も2千分の1だから大体見掛けは同じで、今画像化努力中だという。以上