4月11-12日のマスコミは、地球から55百万光年先の巨大楕円銀河M87の中央にあるBH=Black Holeの画像(添付)の発表に沸いた。米時間4月10日発行のThe Astrophysical Journal Lettersに掲載された論文の紹介だ。The Astrophysical Journalという天文物理の学術誌に付属した速報集だ。https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab0ec7 にその論文"First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole"はある。このBHの質量は太陽の質量の65億倍もあり、無数のBHを引き込み合体して大きくなったと言われている。因みにEHT=Event Horizon Telescopeは後記のような大規模な国際Projectだ。Event Horizon=事象の地平線 とは、BHにこれ以上近付くと必ず引き込まれるという境界面で、そこから内側は見えない「地平線・水平線」のことだ。光などの電磁波も引き込まれ地平線の内側からは出て来ないから、黒い影に見えるはずだ。その影を見たよという発表論文だ。
BHは、Einsteinの宇宙方程式の解の1つで昔からその存在は信じられていたし、BHがあるとしか考えられない天体の動きなどから間接的には観測されてきた。ただ画家が描いた想像図はあったが、観測画像は無かった。今回発表された画像を写真と誤解している向きもあるが、1.3mm波長のミリ波=Extremely High Frequency Waveの電波で観測したのだから光学写真ではない。電波の強弱にそれらしき色を付けた画像だ。
なぜ今までそういう画像が得られなかったのか? BHは光すらも吸い込んでしまうから見えないのだ、という俗説もあったが、車椅子の英物理学者故Stephen Hawking教授がBHの研究を極め、地平線のすぐ外側の現象が様々な形で見えることになっていた。しかしBHは、巨大な質量が小さな体積の中に閉じ込められている。小さすぎて画像に出来るほどの分解能では見えなかったのだ。添付写真のリングの視角は、百億分の3度だ。太陽が0.5度の視角で見えるのとは17億倍の違いだ。ガスがBHに引き込まれる際に、地平線の外側で光速に近い高速で回転する荷電粒子のPlasma円盤になり内側から引き込まれる。電荷がカーブすると電磁放射を生じるから、円盤からは電波が出る。リングの半分が明るい理由は、Plasmaが我々に近付く部分ではより光速に近くなり、より大きな放射になるからだ。
ではなぜ見えたのか? 巨大な電波望遠鏡が用意できたからだ。趣味の個人用天体望遠鏡だって、対物レンズが10cmと20cmでは分解能が全然違う。ではどんな巨大電波望遠鏡が用意されたのか? 上記EHTのProjectで、時間によってはM87のBHを同時に観測できるHawaii, Arizona, Mexico, Spain, Chile(日本も参加)の電波望遠鏡を一体運用し、地球サイズの電波望遠鏡のような結果を得た。更にこれら全てとは同時には観測できない南極など数か所の電波望遠鏡も参加して補正した。一体運用とは何か? 電波の到着時刻の差が正確に分る程度の、1億年で1秒も狂わない高精度の原子時計を各観測点に配置し、観測データと共に記録したBig DataをOff-lineで集め、SuperComputerで同時観測をSimulationした。実際の観測は2017年春の5日間だった。以降2年間かけて解析した。
地球規模ではあるが、観測地点は数点に過ぎない。それで地球規模のパラボラをSimulationする上で、様々な係数を仮定しないといけないのだそうだ。そこで世界中の研究者を4つの独立グループに分け、それぞれがベストの係数を仮定して画像を試作したら、幸い同じような画像が出来たそうだ。それで気を良くして次に理論との擦り合わせで係数を調整して、今回の画像になったという。得られたBig Dataから相当四苦八苦して、それらしい画像を「制作」したのだ。空想ではなく根拠のある制作だ。
我々は目の検査でCの字の向きを言う。視力1.0のCを300万分の1に小さくしても見えるのがこの巨大電波望遠鏡だという。月の表面に置いたゴルフボールが見える程度だそうだ。我が天の川銀河の中心にあるBHは、今回のBHの2千分の1の大きさだが、距離も2千分の1で、同じように見えるだろうとされており、近くまた画像が公表されそうだ。
珍しくもないボケたドーナツのように見えて、実は大変な業績だ。以上