理論と応用が隔年で今年のNobel物理学賞は青色LEDだった。自明だから「うつせみ」で取り上げる余地も無い、と思っていた。二三日経った頃、自問自答する自分が居た。「なぜ青色LEDだけがNobel賞に値するの?」
「それは自明だ。赤や緑よりも青は波長が短く周波数が高い。つまりエネルギーが高い。LEDには大きなエネルギー・ギャップ=EGの半導体接合が必要だ。1990年頃東芝単独の技術展示会を科学技術館で行った時、青色LEDの試作品を参考展示した。薄暗い場所で十個ほどの青色LEDで美しい星空を作った。但し輝度と寿命が両立せず、会期中に何個か差し替えたが、門外漢の私には商品化は指呼の間と思えた。欧米も東芝を含む主流派もAという半導体で研究を進めたが、辺境の徳島の日亜化学工業の中村修二氏は主流派が諦めたBという半導体で取り組み、明るく長寿命の青色LEDが出来た。後に氏は発明の対価が不充分だったと日亜と訴訟になり、仲裁で6億円の対価を得て米California大に移った。青色LEDのお陰で3原色が揃い、また白色LEDも出来て、省エネ長寿命で照明に革命をもたらした。」「EGの大きい半導体接合の何が難しかった?」やはり取り上げようか。
そもそもLED=Light Emitting Diodeはp-n接合のDiode(順方向にしか電流が流れない半導体素子)だ。普通のDiodeとは異なり順方向に電流を流すと接合部が発光する。TVやスマホの一部機種に使用されている有機ELは微小なLEDを平面的に並べたものだ。そのためかNHK-TVは青色LEDのおかげでカラーTVが出来たかのような解説をした。しかし有機ELのTVや、球場や都心街角のLED素子を並べた巨大TVは稀有で、家庭のTVは別の話だ。
LEDには化合物半導体が用いられるが、話を簡単にするためにシリコンSiのような原子から成る半導体を考えよう。化合物の場合も同様だ。原子では原子核の周りを電子が回っている。一番外側の軌道の電子を原子から引き離して自由電子にするに必要なエネルギーがEGだ。その値は原子(または化合物)に固有である。プラスに帯電し易いp型半導体とマイナスのn型半導体が相接するのがp-n接合だ。p側に正電圧、n側に負電圧を加えると、n型半導体には電源から自由電子が流れ込む。p型半導体では電源が原子の電子軌道から電子が奪い取る(正孔)。p-n接合ではn側からの自由電子がp側の原子の電子不足部分に流れ込む。その際電子はEGに等しいエネルギーを失い、そのエネルギーが光に換わる。これがLEDの発光原理だ。LEDではない普通のDiodeでも同じような現象が起こるが、LEDよりもEGが小さく、また電子が直接原子に飛び込むのではなく、結晶格子を揺らせて熱を発生するためにエネルギーを消費してしまうので発光しない。
EGが小さいLEDは、周波数が低い赤外線や赤色を発光し、大きいと青色・紫色や紫外線のLEDになる。だから青色LEDは、EGが大きい化合物半導体の開発がキーとなる。忘れていたが学界業界主流がのめり込んだ上記Aは様々なII族ーVI族化合物だった。なまじ青色LEDが出来たが、輝度のために電流を上げると結晶が壊れ寿命がもたなかった。その間一部の人が手掛けたBがIII族ーV族の窒化ガリウムGaNだった。名大の赤崎勇教授(定年後名城大学)と天野宏助教授(現在教授)がGaNを人工Sapphire基板上に成長させ、更にp型のGaN半導体を作る技術を完成した。中村氏はそれをベースに、最初にインジュウム窒化ガリウムInGaNで明るい青色LEDを開発した。更に蛍光体と組み合わせて白色LED、高エネルギーの紫外線LED、青色Laser(→Blu-ray/DVD)まで開発した。現在では青色LEDは蒸着で成長させた窒化ガリウムGaNで作られている。結局EGが大きく安定な化合物半導体を学界業界が模索する中で、主流派が袋小路に入り、孤高を保った非主流派が当初多かった困難を1つずつ着実に克服して勝利をつかんだ。
中村氏を支援していた日亜の小川社長が亡くなって、中村氏は日米欧に転職を求めたが、米からは多数のOfferがあったが、日欧からは反応が無かった。訴訟中が嫌われたのか、東大も断ったという曰くつきだ。
懐中電灯からSky Treeの照明までLEDになった。白色LEDの主流は、青色LEDと、青色で励起されて黄色を発する蛍光体で、青+黄の疑似的な白色だ。LED照明は蛍光灯の10倍長寿命で消費電力は1/4だという。 以上